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正木の出張 4
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翌日「岩さん」の名刺にあったオフィスに行くと、ちゃんと時間を空けてくれていた。内心酔っぱらって忘れてしまっていないか?と不安だったけど取り越し苦労に終わって一安心。
通された応接室にはすでに媒体資料を用意した男性が待っていた。この岩さんって人何者なのだろう。ここは広告代理店でもなんでもない全国にある損害保険会社の支社。女将が色々ツテのあるエライ人と言っていたが、どうやら職種を超えて影響力のある人らしい。
「弊社は情報紙を発行しております。岩本さんからご紹介いただき、本日は媒体の説明に伺いました」
ここで名刺交換となり、媒体の説明を受ける。なんだこの媒体。えらい地域に密着しているし、おまけにカバーエリアが広い。同じ地域に新聞折り込みを入れるとなると販促予算費を軽くオーバーしてしまう。
「この媒体はポスティングですか?」
こういう時は鈴木さんにお任せしている。俺はメモをとりつつ、自分の疑問があったときだけ口を開く。まずは相手と鈴木さんのやりとりの観察(実は勉強&盗みタイム)
「いえ、新聞に折り込みになります」
「地方紙に?」
「いえいえ、地方紙と全国紙全部カバーしています」
なんと!全紙カバー?どの地域にも地方第一紙の新聞社がある。北海道なら北海道新聞。シェアが5割~6割以上を占めている。都市部になれば全国紙が拮抗している場合もあるが地方は誰もが読んでいる地元の新聞の部数が一番多い。そのため、限られた予算を分配するため、新聞折り込みを入れる時は第一シェアの地方紙を選択することが多い。
この媒体は地方紙+全国紙に折り込まれるとなれば、カバー数もエリアも広がり訴求率が高まるということだ。
「フリーペーパーというよりも記事がけっこう多いですね。広告も色々なものがありますし」
「そうですね。イベントの告知だけではなく連載記事も複数ありますので、読み物として成立しています。求人広告も掲載しているので、様々な人が目にする情報紙。そして週3回発行しますので、複数回の広告掲載で訴求をあげることができます」
「カバーエリアも広いし、新聞と購読している世帯すべてに告知できるのは非常にメリットですね」
問題は費用だよね。段いくらするのってこと。
「木下君、まさか定価を提示する気じゃないだろうな」
「岩本さん……やはりそうきますか」
「当たり前じゃないか。俺が紹介したってことはそういう意味だろう」
担当の木下さんは苦笑いを浮かべつつ、価格表をテーブルに置いた。
「ディスプレイ広告と記事広告で若干価格が変わります」
なるほどね、段3万ちょい。これが定価……エラい人岩さんのプレッシャーでこれがどこまで下がるのか。
「開催日程は決まっていますか?」
「ええ、この週に開催することは決まっています。ただ3日開催4日開催、木曜から月曜の中でどういう曜日どりをするのかまだ決まっていません」
木下さんはう~んと腕組みをしてしばし考えたあと、電卓を取り出しバチバチ叩きだした。A4メモパットに数字を書き込み3か所にグルグル丸印をしてペンを置いた。
「今後もお付き合いいただけることを期待しています。あと岩本さんのご紹介なので勉強しました。まず開催週の頭に全3段の記事広告を打ちましょう。その次の号に半4段のディスプレイ広告。そして最後は金曜日に半6段でディプレイ広告。このパッケージで価格はこれでいかがですか」
三か所のグルグルの先に矢印が書かれた。「¥」の横に数字がダダダを書かれる。俺と鈴木さんは顔を見合わせた。ええええ???ディスカウントに程があるでしょ、これ!
「3回掲載でこの価格ですか?」
「ええ、あまり大っぴらに言われると困っちゃいますので、他言無用で」
ちょっと興奮してきた!
この世帯数を新聞折り込みでカバーする額とあまりにも違い安価だ。新聞折り込みは印刷代と折込料金がかかる。A4サイズのチラシを一枚刷るのに3~4円程度。ただこれは計画的に枚数を割り出し、会場をブランクで大量数刷り、会場ごとにデータを差し替えた場合の金額。これをチマチマ区切ると単価がぐっと跳ね上がってしまう。
印刷は1000枚、3000枚の単価は同じだったりする。5000を超え10000になると単価が下がってくる。言ってみれば1枚刷るのも3000枚刷るのも単価が変わらない。大量に刷れば刷る程単価が下がる。月に60万から100万を刷って3~4円のラインがみえてくる(何事も計画的にが大事)
折り込料は新聞によって違うけれど3.8円~4.5円くらい。一枚折り込みをいれるのに9円くらいの経費がかかるから10万部折り込みますとなると100万弱がポンと消える仕組み。
企画は非生産部門だとよく上から言われてしまう。営業は売上を上げるセクションだが企画はお金使いまくる部署だ。自分の金だったら?と考えるとクラっと眩暈がする金額を毎週使いまくっている。
そんな中、この媒体の価格は魅力的すぎて鼻血がでそう!
「いずれにしても開催は決定していますし、販促はこの媒体を主軸に考えますので、枠は押さえてください。紙媒体はこれでカバーできるので、電波を使えそうです」
「ほおお、TVCMですか」
「ですね、代理店に言って線引きしてもらってから決定することになりますが」
「そうですか。では開催日程が決定したらご連絡をください。記事広告を制作するにあたって資料も必要になりますし」
「他媒体の記事広告が何紙かありますので、それを贈ります。ディスプレイの入稿はデータ送りでいけますか?それとも御社の制作のみになります?」
「両方大丈夫です」
「わかりました。委細やデータは正木から送らせます」
ようやく俺の出番。
「木下さん、会社に戻りましたらすぐデータをメールします。メールアドレスはこの名刺のアドレスで大丈夫ですか?」
「ええ、こちらにお願いします」
打ち合わせは無事終わり、岩さんに丁寧に礼を言った俺達は会社をあとにした。なんという巡りあわせだろう。疲れたな~とボヤキながらコンビニで適当に見繕い、ビールをプシューっとしていてこの媒体を見つけることができただろうか。
地元の人にとって当たり前に存在している情報紙。当たり前すぎると口にでてこなかったりもする。最近できたフリーペーパーやオシャレな媒体を教えてくれる場合が多い。訴求力と見た目は一致しないのも広告の側面だ。
「ここまでクリティカルヒットだったのは久しぶり」
「え~こんなこと他にもあったんですか?」
鈴木さん、あなたは全国各地で何をやらかしているのですか。
「地方によってテレビ番組構成が違うでしょ?アポなしでテレビ局に行って番組構成のパンフレットか何かありませんかって押しかけたの。受付の若い女の子困っちゃって上に電話したら、暇なものでって部長さんが降りてきちゃって。イベントの趣旨を話たら「うちの持っているホールあるけど、見ますか?」って言ってくれてね。会場と広告のパッケージと後援をもらえたことがある」
はあ……俺はまだまだちゃんすぎて言葉がでてこない。
「だからね、どこで何が埋まっているかわからないのよ。表面をなぞったり、おざなりに事を進めれば、その程度の結果しか得られないってこと。まずは動くこと。でも自分なりの目線と視線をしっかり持つことよ。最初は真似でもいいけれど、正木なりの視点ができれば情報は絶対掘り返せるから」
「頑張りますとしか言えないのが悔しいです」
「悔しいと思えるうちはまだ伸びしろがあるってことよ」
わかりました鈴木さん。ポジティブシンキングで俺なりの高みを目指します!
その時閃いた。そうか、その手があった!
「鈴木さん、搬入は俺だけでします。業者を『コンストラクション』を使えば俺だけでできますよね。そして受付のバイトは雇わないで俺が担当する。グッズはアイテム絞って俺とウェイティング最後の営業でカバーする。搬出は全員で終えて翌日営業は移動。俺は海峡メッセを見た後、ソラリア行ってからTNCと打ち合わせしてスカイマークで千歳に戻る。これなら諸々の経費節減になるし、営業は全員そろって開催期間動けます」
鈴木さんはフフンという顔をしたあと俺の背中をバシンと叩いた。
「パターン4と5をうまくミックスしたね、正木。会場視察してお昼を食べよう。奢っちゃうよ!」
「ありがとうございます!!」
俺のありがとうは昼飯の奢りではない。やっぱりあったパターン4と5。そしてそれを言わないでいてくれたことに感謝。思いつくだろうと期待してくれたことに感謝(俺の勝手な推測だけど)
俺なりの視点か……いつそれが身に着くのか皆目見当がつかないけれど、俺は絶対それを手にしますから。見ててください鈴木さん!!
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