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トアと坂口さんの一週間 その4 november.6.2017
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<<<<11/6 月曜の朝
「おはようございます」
「んん……おはようございます」
「昨日はご機嫌のお帰りでしたね」
「優ちゃんと楽しくて、少し飲みすぎたかな。まぶたが重いです」
「じゃあ、今日は温泉でも行きます?」
「温泉ですか?」
「中島のアートホテルなら歩いて行けますよ。ジャスマックでもいいですし」
「サウナに入ったらスッキリむくみもとれるかな。絶対不細工な顔なはず。鏡見たくない!」
「充分可愛いです」
「もお!朝から何言ってるんですか!」
「朝でも昼でも夜でも、いつも素敵です」
「やめてください!」
トアさんは「嘘ではないですよ」と言いながら私をギュウと抱きしめた。恥ずかしさが薄れて安堵が胸に広がる。トアさんは嘘の言えない人だということが嬉しい。トアさんに一番似合わないのが嘘だろう。誤魔化すことなく言葉を継いでくれる。たどたどしくても、時に寄り道しても、トアさんの話す言葉は正直な気持ちだから、信用できる。
「温泉入って、ご飯食べながら相談しましょう」
「何をですか?」
「両親が札幌に来てくれることになりました。私が休めるか微妙だったので助かります」
「え?わざわざ?」
「娘の一大事だと思ったんじゃないかな。会って欲しい人がいるなんて私初めて言ったから。日曜日は早退させてもらうことにします。夜どこかで食事をしながらですよね。お店をみつけて予約しておかないと」
「うぐぐぐぐ」
「どうしました?」
トアさんは私の首筋に顔を埋めながらボソっと言った。
「すでに緊張してきました」
トアさんの髪を指で梳きながら額にキスをする。
「大丈夫。きっと大丈夫です。二人揃って緊張しましょう」
「うぐぐぐぐ」
揃ってクスクス笑いながらお互いをギュウと抱きしめる。大丈夫ですよ、トアさん。親が何と言おうと私の気持ちが決まっている以上、どうにかしてみせます。それを言ったら私だってトアさんのご両親に気に入ってもらえるのか……あああ、緊張してきた。きっと次は私がトアさんのご両親に会うことになる。
一緒に生きると決めたのなら、お互いの家族とも心を通わせて大きな「家族」にならなくてはいけない。でもきっと出来る、大丈夫。根拠のない「大丈夫」が沢山湧いて来るから、うん、大丈夫。
「温泉の前にコーヒーが飲みたいです」
「お安い御用です。お店はいざとなったらSABURO軍団に助けを求めましょう。接待御用達の店、知る人ぞ知る穴場、色々知っていそうですから」
「ですね。接待とは無縁なのでそういう情報に疎くって」
「僕も同じです。では活動開始しますか」
「はい。定休日を満喫しましょう」
季節はどんどん冬に近づいているというのに、私の気持ちはとても明るい。おまけにワクワクしている。私の人生が動き始めたこと、そして一緒にトアさんと時間を過ごす。そのことが何ともいえず嬉しい。
映画の神様へ「ありがとうございます」
私は胸の中でこっそりお礼を言った。
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