アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
chapter21 能あるタカが爪をだす その1 <9月>
-
「飯塚、キリのいいところでミーティングルームにきてくれ。」
外回りから戻ると、課長から呼ばれた。
向かいの席で「なに?」って顔をする武本に首を横に振って見せる。何かやらかした覚えはない。
「失礼します。」
ミーティングルームでは課長だけが座っていて、表情を見る限り怒っているわけでもないし神妙な顔もしていない。さっぱり見当がつかない。
「まあ、座れよ。何で呼ばれたわかんないって顔だな。」
・・・実際わかりません。
「だらだらまわりくどいのは嫌いだし、無駄なことはウンザリだ。単刀直入に言う。お前ら会社辞める算段してるだろ。」
予想外の爆弾に顔が引きつる。こんな顔みられたら、違いますと言ったところで意味がない。
この人が時折みせるキレキレな仕事っぷりを失念していた。
「・・・・手抜きした覚えはないのですが、バレてましたか。」
「逆だな。」
「・・・と言いますと?」
「何が、『と、言いますと?』だよ。取引先の狸相手にしてるわけじゃないんだから、普通に話せ。
ま、そのぐらい動揺してるってことか?面白れぇな。」
ニヤニヤされて・・・正直打つ手がない。
「直感型のお前が随分考えて仕事をするようになった。先月の半ばすぎからだな。考えて最短の距離で解決しようとしている。
おまけに武本はより馬鹿丁寧にスパルタで新人二人をこき使っているだろ?
あげくに甘い甘いご褒美を与えて、さらにケツを叩いている。おかしいって思うだろ。」
「そんなに、あからさまでしたかね・・・」
「お前らを仕込んだのは誰だ?」
「・・・課長です。」
「ついでに愛をささやきあったか?」
「はあ?」
内臓すべてが喉にせりあがるような気分だ。・・・そんなに俺はわかりやすいのか!
「はあ?じゃあねえよ。ほんと笑えるな~飯塚。」
「囁き合ってません!」
「まあ、それは置いといて、武本呼んでくれ。」
俺はノロノロと席を立ちドアを開けてオフィスの武本を手招きする。
不安そうな顔で近づいてきた武本に耳打ちをした。
「ばれた。」
武本がスっと息を吸いこんだ。
「さてと、武本。飯塚がゲロったぞ。」
・・・いや俺は一言もいってないですよ。恨めしそうな顔をしていたのか、向かいの課長は嬉しそうにニヤニヤしている。
「武本、お前のエンドじゃ長すぎる。飯塚は年内いっぱいまでにするから、そのつもりで。」
「ええ・・・?」
ほらな、え?とか、はあ?しか言えないだろ。
「お前ら二人で仲良く仕事することに慣れちゃって、俺の存在忘れてただろ?」
何が言えるというのだ、俺達は無言で課長の顔を見るしかない。どっちが狸だ。
「辞める本当の理由を言ったところで納得は無理だろうから、そうだな・・・飯塚の親父さんの事業の都合ってことにしておくか。」
「俺、今まで父親のこと言ったことありましたっけ?」
「記憶にないな。」
「なんで、そんな。」
「俺は部下の把握を怠らないってだけだ、他意はない。飯塚の家は少々複雑であまり話さないからよくわからないが、家の事情で仕事を辞めなくてはならなくなったらしい。詳しいことは課長しかしらないみたいだ。そういう説明でいいだろう。今更料理人になるなんて誰が納得するんだって話。」
「それも・・・俺言ったことありましたっけ?」
「記憶にないな。」
部下の把握というものが、いったいどこまでなのか・・・考えたくない。
「武本?」
「あ、はい。」
「やれやれ。そんだけ動揺した顔をしてれば不必要なことを口走ることもないだろうな。質問~能ある鷹は爪隠す。これ何故だかわかるか?」
「・・・出る杭は打たれる・・・からですか?」
「ことわざ返しか。お前のそういうとこ好きだぞ、俺は。」
「はあ・・・。」
「お前のことだから、ある程度場を整えて飯塚が辞めると言いだしても現場が困らないようにしようと考えたんだろ?」
「・・・はい。」
「能ある鷹は爪隠す。それはな、自由に飛ぶためだ。」
「え?」
「ようやく顔あげたな~。お前の目論見通り、盤石の態勢を整え無敵のチームをつくったとする。それで、そのあとどうなる?飯塚が一抜け~って言っても誰も認めてくれなくなるってこと。」
「いや、でも。」
「できる男を会社が手放すと思うか?石川や渡辺が今辞めるといっても、しょうがないなで終わる。でもどうだ?お前らに役職がついて、新しいプロジェクトなんぞがもちあがったり、新しいセクションで違うステージが用意されたら一抜けなんてできなくなる。それにどうする?お偉いさんの娘や姪の縁談でも押しつけられたら。」
「課長・・・そんな。」
「そんな~じゃないぞ、飯塚、これが現実だ。今ならもったいないから引き止めはするが仕方がないなと言ってもらえる。」
「・・・・そこまでは・・・考えていません・・でした」
「そうだろ?武本、だからお前はまだまだなんだよ。俺がお前の上に居座れているのは、そういうわけ。石川と渡辺に話通してこい。箝口令ひいとけ。もう一回いうぞ、年内だからな。」
「・・・はい。」
「そうすれば忘年会と送別会の抱き合わせもできるし、取引先の宴会や年末の挨拶と引き継ぎも全部いっきにできる。まさに無駄なし!以上。武本はもういいよ。」
部屋をでていく武本の姿を追うことはできなかった、目の前にいる課長を黙って見つめた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 474