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octber 18.2015 目からウロコ~
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日曜の夜は暇だ。
金曜・土曜に比べて客足は落ちる。そりゃそうだよね、明日は仕事だよ、嫌になっちゃうな~ってサザエさん見ながら思うらしいから。そんな日に外に出たくないという気持ちはわかる。俺にとっちゃ日曜日こそがウキウキ日なわけ、明日休みだし。
サトルデータによると、日曜のランチの数字は捨てがたいものがあった。やはり日曜を完全に休みにして月曜と連休にするのは腰が引ける。たった月に一日のことでも、×12ケ月となればまとまった数字になってしまうから。
今考えているのはハッピーマンデーの祝日前の日曜はランチだけ営業してミニ連休にしようかなって案。
月曜祝日は毎月あるわけじゃないから、それほど大きな影響はでないかな~って。でもこれ、まだ俺の頭の中だけの事なんで、近いうちに議題として提出するつもり。
店内はテーブル席に客はいるけど、カウンターは空だった。カウンターの密度が増すのは圧倒的に平日。
日曜日の夜にお一人様をする人は少ない。
「いらっしゃいませ。今晩は!」
ハルの嬉しそうな声が聞こえてきて入口に目をやると、そこにはすずさんがいた。どうやら一人らしい。
時間は21:30、ラストオーダー30分前。この時間に一人で来るのは珍しい。ハルに何やら一言二言言って頭をなぜなぜしたあと、ヒールをコツコツさせながら真っ直ぐカウンターにいらっしゃいました。
「実巳君こんばんは。」
「珍しいですね、こんな時間に。何か飲みます?いつものワイン?」
すずさんは少し考えて、ちょっと首をかしげて笑った。
「ワインは章吾と飲むことにする。ビールもらおっかな。」
「はい、ビールね。」
彼氏さんは日曜の今日も仕事なのかな?そんなことを考えながら生ビールを注いで持っていく。
「今日はカウンターで実巳君を独占ね。ラッキーだわ。」
「そんなお安いので喜んでもらえるなら、毎回しますよ。」
「何言ってるのよ~。ここがガラ空きなことが珍しいのに。」
ええ・・まあ。そうです。対面式ってわけじゃないから、お客さんと話ながら料理するのは難しい。
(ある意味楽っちゃ楽なんだけど。)
でも相手がすずさんなら俺だって大歓迎だ。
「章吾が出張から帰ってくるから外でごはん食べようってことになったのね。でも仕事が押したらしくて、結局乗れたのは最終一本前の飛行機。だから外はやめて家で食べる事にしたのよ、明日も仕事だからね。
私はやる気満々で外にでていたから、このまま帰るのもなんだかね。
それでここで一杯ひっかけて帰ってもいいかなって、来ちゃった。」
来ちゃったって、可愛いですな~すずさん。しかし忙しいお二人だこと。すずさんカップルにおいて、すれ違いは関係ないのかな。気になる・・・。
「お互い忙しいのに、長続き。この秘訣教えてくださいよ。振られっぱなし予防の参考にしたいデス。」
「実巳君、女子を見る目ないんじゃないの?そうそう振られる男には見えないのにね。」
「いやいや、連敗続行中です。」
「なんて言って振られるの?」
「つまんないらしいですよ。まず時間が合わないでしょ?向こうが仕事終わっても俺は熱烈仕事中。
そして日曜も熱烈開店中。連休なし、クリスマスなし、正月なし、全部なし。「私じゃなく店とつきあってるような人と一緒にいても楽しくない。」とかなんとか。そう考えたら俺一生一人ぼっちぽくないですか?笑うしかない。」
自分で言ってて悲しいとは、まさにこの事だよね。
「でも、そんなことわかってて実巳君と付き合うわけだから、それ言われてもって話よね。」
「ええ、まさしく。」
「最初に約束事にしちゃえば?俺に休みの遊びを求めるな!世間のイベントを一緒にできると思うな!
諦めろ!って。」
「うわ~最初にですか。」
「私と章吾は最初に決めたよ。家事は気が付いた者がやることって。だから洗濯しなくちゃ~って気が付いた方が2人分する。先に帰ってきたほうがごはん作る。それと自分が言われて嫌なことは相手に言わない。」
「へえ。」
「嫌だもん、仕事と俺どっちが大事だとか言われたら。そんなの同じ土俵にのせるなって事じゃない?
どっちも大事に決まってるのに、無理難題言うな!って思うから私も絶対言わない。
それに仕事に打ち込んでいるって大事なことだよね。私は仕事のできない男が嫌い。ウダウダ言う男も嫌い。仕事を満足にできないくせにプラベートばっかり頑張る男も嫌い。だから忙しいポジションで頑張る章吾は私の励みになっている。私もそういう存在でありたいし、まだまだ満足していないから、もちろん自分も頑張る。」
「ふむ。」
「それで二人の時間が減ってもしょうがないというか、そういう時期なんだと思う。この年齢の時に会社の中心に居ないで定時で帰るような人生でいたくない。そんな男と付き合うのはもっと嫌。
だから時間が空いたらちょっとご飯を外で食べるとか、家で一緒に料理するとか、そういう些細な事で充分楽しかったり嬉しかったりするのよ。朝起きたときの「おはよう」が大事だったりね。
だからね、実巳君は自分に合った相手に巡り合っていないのかもね。」
「なんだか羨ましいな。結婚はしないの?」
「う~~ん。それはね何度か話し合った。一緒に住んでいるから紙一枚の事じゃないかって言う人も沢山いるし、現に両親にもせっつかれる。でもね、結婚って形をとっちゃったら「継続」させることが義務になっちゃうような気がするのよ。私達は一緒にいたいと気持ちが一致しているから一緒にいる。結婚って形をとってしまったら、二人の関係が違ったものに変わってしまいそうで怖い。
それに仕事を頑張っている今、環境を変えたくない。これは二人の至った現在の結論。
今後変わるかもしれないし、時期がきたら変化していけばいい。
だから結婚は今じゃない・・・かな。」
俺は真面目に恋愛に関して誰かの意見をちゃんと聞いたことがない、その事に気が付いた。
鉄仮面やサトルに聞くのは、お互い気恥ずかしい。たまに逢う友達に「最近どうよ?」なんて聞いて返ってくるノロケなのか自慢なのか愚痴なのかわからん話に相槌を打っていただけだ。
ちゃんと自分達の関係に納得していて説明できる人に初めて・・・逢った。
「実巳君、お願いがあるんだけど?」
考えこんでいたので、一瞬返事が遅れちゃった。
「はい?」
「パニーニ2つ持ち帰りたいの。あれとワインがあれば、疲れもふっとぶはず。」
すずさんはニッコリ笑って、手を合わせてお願いのポーズ。そんなことしなくても作ります、あなたの為なら何でもしちゃう、そんな気分だ。
「2つでいい?」
「うん。」
「飯塚~パニーニ2つヨロシク!」
俺はもう一杯生ビールをジョッキに注いでカウンターに置いた。
「ん?」
「俺のおごり、すっげ~いい話聞かせてもらって何だかモヤモヤが消えた感じがしてるの、今。」
「ありがとう!こんなの気がきくのに、振られ男って世の女子は見る目ないわね~。」
「んじゃあ、すずさんのコピー人形俺にくださいよ。心から愛しちゃう。」
「またまた~。大人をからかうな。」
そっか~。すずさんみたいに俺みたいに、いや俺以上に頑張っている人だったら、俺を理解して一緒にいてくれるのかもしれない。飯塚とサトルだってサラリーマンやめて別の道を選択したわけだ。そこに至るまで、何もなかったわけじゃないだろうし、これからだって安全な道かどうかわからない。
でも二人でいることを選んだ。
俺は自分がどんだけこの店を想っているのか、この店がどうやって出来たのか、沢山の人の想いが形になった大事な場所だってこと、ちゃんと伝えていなかった。だから俺が仕事を優先するのか相手は理解できずに不満や寂しさだけが積み重なっていったのだろう。
なんだ単純なことだ、そりゃ振られるに決まっている。俺は相手を尊重していなかったし理解していなかった。理解してほしいと頑張ることもしなかった。なるほどね~目からウロコですよ、マジで。
「パニーニあがったぞ。」
「ん、あんがとさん。」
包みをすずさんに渡す。
それを合図にジョッキを一気に空にしてすずさんが立ち上がった。カウンターの上には代金がすでに置かれている・・・無駄がないですねえ。
「じゃあ、帰るかな。ビールとパニーニありがとう。実巳君、何事も無駄な経験はないのよ。これまで不本意な形に終わった恋愛には共通点があるはず。だからきっと、実巳君にぴったりな相手のことはすぐわかるわよ。今までと全然違う女性だろうから。」
そう言い残して手を振って出口に向かうすずさんに、心の中で手を振った。
やっぱり格好いい女性は、中身も素敵だ。
仕事も恋愛も一皮むけた俺になった気分。
俺にとっての今はSABUROだ。もうすぐサトルも完全に仲間になるし、俺の居場所はここで仲間がいる。振った振られた惚れた腫れたより仕事を頑張れってことだろうな。
そして恋に頑張る時期がきたら、今度はちゃんと相手に伝えよう。
「SABURO」が俺にとってどんな場所かってことをね。
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