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12年・・・重ねた時間の目指す先 1
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まぶしい・・・カーテン・・・しないで寝たのか・・・
ベッド脇のサイドテーブルがわりに置いてあるチェストの上に手さぐりで手をのばす。指先に触れたスマホを握り画面をみれば、まだ8:00すぎだった。
せっかくの日曜だというのに無駄に早起きをしてしまった。むっくり起き上がると布団の中に空気がはいったせいか、丸くなる男を見下ろす。
別に色っぽい朝でもなんでもない。ベッドは一つしかないし、予備の布団がないから酔い潰れたギイをベッドに転がし横にもぐりこんだだけだ。
俺達はいつからちゃんと名前を呼び合わなくなったのだろう。
俺は儀からギイへ、ギイはヒロからマスターへ。
俺の店に来るようになってからだ。
節操ナシという看板を背負っているような男だ。店の客と寝まくるに違いないから「ほどほどにしておけよ。」
と釘をさした時に言われた。
「古い付き合いだとバレたら、ヒロに迷惑がかかる。あくまでも店の客と店主ってことにしておこう。
だからお前はギイと俺を呼べばいいし、俺は他の客と同じくマスターって呼ぶよ。」
ギイの言う迷惑は本質をはき違えている気もしたが、この男に色事で何をいったところで無駄だから何も言わなかった。やりたいようにやるくせに、あまり憎まれない。それがギイという男の欠点であり魅力でもある。
俺達の出逢いは17歳の頃だ。自分のセクシャリティが明らかにおかしいと自覚してからそれなりの年月を重ねたあとだったから実際の世界を覗いてみたいとずっと思っていた。
クラスメイトとの飲み会の帰り、自分と同じような男達が集まると言われている店に行った。雑居ビルの階段に腰かけながら、店に出入りする男達を眺めていると安心した事を覚えている。
本当に自分だけじゃないんだという現実は有難かった。
そしてやってきたのがギイだ。店に入る前に階段に座っている俺に気が付いて少しの間みつめた後、ふわりと笑った。
「はいんないの?」
「うん、いいよ。もう帰るし。」
ギイは店のドアをあけるかわりに俺の隣に腰かけた。
「入ってみてから好きか嫌いか決めればいいよ。居心地が悪ければ帰ればいいだけだ。ここに座っているよりずっと簡単に答えが出る。」
確かに・・・。
俺の腕をとって立ち上がらせると「行こうぜ。」と言い歩き出したから、俺はそのままついていった。
そしてその場所は俺にとっての拠り所になった。普段はマイノリティーであっても、ここにくれば自分達こそがノーマルに成り得た。その感覚は疾しさや焦りと不安を消してくれたし、そこにある出逢いを楽しんだ。
SEXを覚え、人肌の温かさを知った。
自分の店を持つ。明確な目標ができたのはよかったのだろう。特に勉強したいこともなかったし、地下鉄にのって通勤するサラリーマンをする自分の姿はあまりに漠然としていた。
自分が救われたように、居場所を探している男達が安心できる場所を作る。その使命感にも似た決意は進学を辞め飲食業界に足を踏み入れることに繋がった。
ギイは大学に進んだが、俺達の友情は継続された。妙にウマが合ったし、互いにゲイだという気軽さがあった。嘘をつく必要がないというのは気持ちがとても楽になる。
親友とよべる関係を築きながら、重ねてきた年月。今年でそれは干支を一周することになり、それなりの長さになった。
自分の店を持つ、それは案外簡単に手に入った。23歳の頃、オーナーの息子に口説かれた。金持ちで優しい年上の男。断る理由はなにもない。そこからの2年間良好な関係は穏やかに続き、不満も不平もなく恋人と呼べる存在を得て有頂天だった。
しかし、それは突然終わりを告げる。
「跡取り息子であるから結婚しなくてはならない。紙切れ一枚のただの契約だ。俺が好きなのは弘毅だけだから。」
色々なものがガラガラと崩れた。俺だけが好きなのに、何故女と結婚できるのか理解できなかったし、女と寝た男と寝る意味がわからなかった。
家のためだよ、そう諭されたが、俺ではなく家を優先したことに変わりはない。ひどく馬鹿にされた気分になったし、結婚しても関係を継続しようという提案に頷くだろうと思われていることに腹が立った。
「親にぶちまけられたくなかったら、俺に店を一つくれればいい。
それですべてをチャラにして、もう貴方には近づかないよ。」
それに返ってきたのは「残念だね、君を失うのは・・・わかったよ。」だった。
何が残念だ!
怒鳴り返してやりたかったが、あくまでも冷静であるフリをしながら条件の取決めをして別れた。
別れとの引き換えに得た店 『bright』
男達の出逢いと別れ、遊びと会話。店にくればそれがあり、様々な年齢層や職種の男達が集った。
ゲイであるという連帯感の中、夜毎繰り広げられる人間模様。
ギイは居場所を俺の店に定めて、場の中心にいた。
俺は誰とも付き合うことをせず店主としての立ち位置を守り続けた。
「自分の客に手はつけたくないから。」その嘘は客達に真実としてうけとられ、密かな恋人の存在が囁かれている。
でも皆間違っているし、恋人はいない。
男と別れた時、俺が感じたのは怒りと情けなさであり、悲しみも悔いもなかった。別れたくないと縋る気は全然わいてこなかった。
恋人という存在に浮かれていたわけではなかったのだ。俺は恋をしていたのではなく、必要とされていることに安心していただけだ。
寝入る少し前の時間。
一人で少し飲みすぎたかなと思う時。
何もすることがなく部屋で過ごしている日。
その時フっと脳裏に浮かぶのは、階段に座った俺にふわりと笑いかけたギイの笑顔だ。
腕をとって俺を引っ張り上げたギイの眼差しだ。
最初の瞬間から、親友である男は俺の中に潜りこんでいる。
男と別れて店を持てたのはラッキーだったが、いらないことにまで気付いてしまったのが残念だ。
俺以外の男と寝る節操なしのギイ。
横でずっとそれを見守り続ける俺はそうとう自虐的だし、ドMなんじゃないか?
そのうち気持ちは枯れるだろう。
そう信じてきたのに、まもなく俺は30歳になろうとしている。
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