アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
december.9.2015 ミネと衛のなれそめ
-
「なんだか男っぷりあがってんじゃないの?俺とトアだけ仲間外れ?」
ちょっと悔しくなって、そんなことを言ってみる。
サトルはなんていうの?ちょっとクラシックなスタイルと濡れたような黒髪に色が変わっている。スタイルにマッチした濡れ烏的な色目が妙にいい・・・というかエロい度が増している気がする・・・。
やや相好を崩してサトルを見詰めている鉄仮面に言ってやる。
「サトルの兄ちゃん、どんなつもりであの頭にしたのかな。格好いいけどさ、それ以上にエロいだろ、あれは飯塚的にいいわけ?」
「エロ・・い?」
「ああ。男にビクともしない俺だって、あれはなんかちょっとモヤっとする色気というか・・・。
要はエロいって思うぐらいだから、そっち系の方にもズドンなんじゃないの?
ついでにいうと女子にもズキュンなんじゃないの?」
「兄さんめ・・・。」
「衛君のお手並み拝見ですねって事だろうな。ちゃんと繋ぎ止めておきなさい的な。」
怒りだすかと思いきや、妙に納得顔の鉄仮面。わかんね~、なに?もしかしてサトルの実家には秘密が一杯あって、髪を切ると啓示を与えてもらえるとか?
「ああ、俺一人だけのことじゃない。皆の幸せがかかっているからな。」
・・・全然意味わかんね。
ただなんか、その腹を括りました感の顔がさ、悔しいけど男前なわけよ。自分以外の存在を得ると、人は変わるのかな、そんなふうに思うと自分のことが何となくつまらなく感じたり。
「女と無気力に付き合っていた高校生の頃の飯塚と今は全然違うな。」
飯塚はしかめっ面でこっちを見た。蒸し返すなっていう心情アリアリの顔がなんだか笑える。
「村崎は誰が横にいても楽しそうに見えたがな。」
しかめっ面をするのは俺の番だ。
人の好意を受け取ることには慣れていた。ちょっと面白くて気さくで軽め、でもあんまり群れない。そんな風に回りは俺を見ていたわけだけど、一番波風が立たない方法がそれだっただけの事。言いたいことは言うけど、軽さを装えば真意が軽減される。「村崎が言うならしゃーないな、お前に言われても深刻に悩めねえ~つぅの。」と笑い飛ばす相手に投げかけた言葉は全部本音だったりした。良く言えば「軽妙」悪く言えば「軽い」その間を綱渡りして本音を吐き出してきたわけだ。
勉強でもスポーツでも趣味でもなんでもいい。人に認められようがケナされようが、自分で決めてそれをどうにかしてやろうって足掻いている人間を見ると安心した。
その点で言えば、飯塚はどこにも属していなかった。
「好きです。つきあってくだい。」そう告白したタイミングで飯塚の隣が空いていれば「彼女」になれる。
だが、飯塚自身はいきなり好きだといわれた相手のことを何も知らないし、言っちゃあ悪いが知ろうともしない。断る理由がないというだけの承諾だから・・・ヒドイっちゃひどい。
告白された時に言う言葉は「たぶん3日で俺のこと嫌いになるよ。」だった。
(当時俺は鉄仮面じゃなく、嫌いになるよ王子と心の中で呼んでいた。)
私を好きになって攻撃を平然と受け止めるが好きにならない。不味い弁当は突き返す。行きたくない場所にはいかないし、本を読まない女は嫌いだと平気で言う。ヘタに男前なだけに女子の評価が徐々に変わっていったのはしょうがないだろう。「顔がいいからってエラそうに。」「優しくない。」
正直にしていると「優しくない」と言われるのはどうにも納得できなかったから、貧乏クジひいちゃって可哀そうに、なんて思っていた。
あんまり話すような間柄じゃなかった俺達が友達になったきっかけは「不味い弁当」だった。
何人目か数えるのも面倒な彼女が作ったらしい弁当を前に腕組みする飯塚を見たのは音楽室だった。何でそこに俺が行ったかというと、廊下ですれ違った先生に無理やり教本を持って行けと命令されたからで、選択が習字の俺に音楽室は無縁だった。仕方がなく覗いた音楽室にポツンといたのが飯塚だったというわけだ。
「あら、飯塚、一人で弁当?」
「一緒に食べるのを断ったから、ここは一人になる絶好の場所だ。」
弁当一緒に食うのを断る・・・その真意はなに?そんなことを考えながらグランドピアノの上に押し付けられた教本をドサリと置いた。台っぽいからここに置いたけど、ピアノって楽器か~机の上のほうがよかったかな?なんて思ったけど、思っただけ。
そのまま音楽室を出ようとしたら後ろから声をかけられた。
「村崎、父親はシェフだったな。」
唐突すぎる問いかけに「はぁ?」な俺、しばし音楽室で見つめ合う。からかったりの様子がないことに安心するも、弁当を前に心なしか元気のない飯塚が気になる。
「そうだけど?」
「良い店だな。ほっとする味だし、たまに寄らせてもらっている。」
ヨラセテモラッテイル?高校生の使う言葉かよ~~王子様!
「悪いがこの弁当の中身、食べてみてくれないか。」
「なんで?お前が作ってもらった弁当だろ?」
「だからだ。」
「ダカラだって、なんなのダって話よ、まったく。へえ~見た目は悪くない。」
「ああ、色目はな。」
「んじゃ、この唐揚げいただきます。」
んぐ、むぎゅ。噛んでわかるこの感じ。
咀嚼をやめた俺にティッシュが差し出された。
「飲みこむな。」
はい・・・王子。ぺっぺっぺ。
「うわ~これ冷凍食品だろ。もも肉の脂のブニュッと感!あの黄色い脂肪全部抱き込んで揚げてみました~な気持ち悪さ。味が濃い。俺は嫌い。」
「だな。」
「もう食わないよ。可愛く作ってるけどさ~。なんていうの?見た目重視だなこれは。彩は栄養のバランスに繋がるけど、食材が新鮮であることは大事だ。旬のもの何にもはいってないじゃんか、この弁当。ひとつ入れたいよな。スナップエンドウのガーリックオイルあえとか。
あとさ、冷めて食うもんだから、冷たくても美味しいものを食べさせたいじゃないの。このカップのグラタンだけど、冷たいグラタン旨い?ポテサラのほうがいいじゃん。フライドオニオンかけるとか、ベーコンビッツとローストしたクルミを混ぜ込むと旨い。キュウリは好きじゃないからポテサラにはいれたくない。
こういう弁当より、水筒にビシソワーズ入れてきた方がポイントたかくね?」
キョトンとしたあと飯塚が盛大に笑った。
今まで見たことが無い心からの笑顔。あ~なんだこいつ、ちゃんとした人間なんじゃないかって安心した瞬間。
その日から今日まで俺達はずっと友達だ。
後日俺が本気のビシソワーズを水筒に入れて持って行ったことが決定打になった。
レシピをしつこく聞き、メモしながら味わう。その顔はキラキラと輝いていた。
その時思ったんだよね。リサーチ不足なんじゃないの?なんでも美味しい!って食べる役をやっておけば道が拓けたかもしれない女子の皆さん。身の丈に合わない女子力アピールは飯塚相手には墓穴だよねってさ。
それから高校を卒業するまで、これは!と思える一皿ができたら必ず飯塚に食べさせた。そんな俺達も30を目前にしていて、今は同じチームだったりする。
そして恋愛にやる気のなかった飯塚がどっぷり恋ってやつにはまっている(相手は男だけど・・・。)
憎たらしいくらい似合っている髪型を頬杖しながら見上げた。
「お前、昔より今のほうがずっといい。それってサトルのおかげ?」
「だな。」
即答ですか!飯塚さん!
「どこで、どう変わったんだよ、単なる同僚からドキがムネムネ君に。」
「さあ、どこだろうな・・・。思い返せばどれも全部タイミングに思える。理は自然に入り込んできた。
いや・・・違うな、そこにいた。気が付いたら居るのが当たり前で、いないと不自然さを覚えるほどだった。
同僚にそんな風に・・・ましてや男だろ?」
「そうだよね、んで、どうしたの?」
「サトルは思い悩んだらしいが、俺は悩む事をやめた。」
「はあ?」
「惚れた腫れたは愚かしいと正直思っていたところがあった。でも生まれて初めて浮かれたりワクワクしたり意味もなく言葉一つが気になったり、気に病んだりっていう作用がすべて理が原因だった。それって男が女に対する気持ちだろ?俺は女に今までそんなことにならなくて、でもやることはできるからゲイではないだろうと思っていたが、武本が自分の中に存在していることを自覚したとき、性別は気にならなかった。理が女でも同じように惹かれただろうし。
だから・・・悩まなかった。理がいれば問題ないってことだよ。」
飯塚さん・・・・けっこうな告白ですよ。聞いていて恥ずかしいデス。
「理がいいんだ。認めてしまえば単純なことだ。複雑なのはその先なんだよ。好きです、俺も好きです。そうやって始まった時が一番楽しいかもしれない。そこから一緒に居るために、関係を継続していくために沢山の事が立ちふさがる。
自分にとって味方であった家族も恋愛がからんだ瞬間から一番の厄介に変わったりもする。
悩んだり、迷ったり落ち込むこともある。でも思うんだよ。」
「なんて?」
「理と一緒に居る為なら何だってできるし、何だってできそうな気がする。」
「はっ?・・・なに言って・・・んの。」
目の前にいるのは見慣れた顔だというのに、やけにキラキラしていて思わずぼ~と見詰めたくなるような有難い顔で・・・。
本気の男前の・・・顔だった。
「村崎だって、絶対にそういう相手がこの世の中にいるはずだ。逢うべくして逢うそんな存在がな。
料理をしている時、仕事に向き合う姿勢、お前は文句なしに格好いい。
まずい弁当作るより、水筒にビシソワーズ詰めてくるような相手がきっと現れる。
のんびり待ってろ。」
飯塚はそう言って、俺の少々伸びた髪をわしゃわしゃした。
互いに少しばかり照れくさく
でもなんだか懐かしく
それで、やっぱり友達はいいなと思い至り
こいつと友達でよかったって・・・なんだかものすごくホッとした。
12月にしては穏やかな、なんてことのない中休み・・・。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
148 / 474