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may.9.2016 花降らしの雨
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「うわああ~~。えええ、これずっと続いてるのですか?両側ずっと?」
SABURO軍団は日曜日の営業を終えて慌ただしく出発。深夜に到着して理さん実家に厄介になりました。コソコソ音をたてないように忍び込む怪しい5人はそのまま速攻就寝。そして朝6:00過ぎに起きてお花見に出発したというわけです。
海からは随分離れた奥に桜の名所がありました。ずっと続く桜並木です、遠くの山まで続いているかのようなすごい眺め。これが満開だったらどんなことになっていたのでしょう。これだって充分綺麗で圧倒されます。
風がふくたびに桜の花びらが舞い散る。まさしく花吹雪が目の前で!なんでしょう、感動します。
綺麗すぎるものを見ると泣きたくなりませんか?僕はなります。
散った桜の花びらが道路のふちに降り積もって、緑の草とピンクの花のコントラストも綺麗。散ってしまっても尚美しい・・・日本人が桜に求める美は姿を変えても保つ永続性なのかもしれません。よくわからない日本語を呟きそうになるほど、ここは綺麗です。
「やっぱり随分葉がでちゃって、全体にトーンが茶色になってるね。満開の時はモフっとしていて、白とピンクがグラデーションになるんだ。何回見ても、何歳になってもやっぱりここには来たくなる。」
「こんな眺め小さい頃から何回も見たなんて贅沢すぎる!翔にみせてやりたい!」
後部座席でかなり前のめりの僕を見てミネさんが笑った。でもそう思いませんか?自分の大切な人と一緒に見たいって。
「来年連れてくればいいじゃないか。来年が無理でもその次あるだろうしさ。SABURO主催の花見大会があってもいいかな。ハルんとこの皆やおじさん、西山さんとか。」
「おおお~ミネさん。それは素敵すぎます。いつか実現させましょう。」
ゆっくり車を走らせる理さんのおかげで両側の景色を見放題です。防風林の役目で桜の後ろに立っている松の奥には広い牧草地がひろがっていて、桜もいいけどその鮮やかな緑にも感動です。
「雨がなかったら、もう少し花があっただろうな、残念。せっかく皆で来たのに。」
「サトル、来年もその先もあるだろ?いつか満開の時にタイミングが合うよ。」
「そうかもね。この道サザエさんも車で走ったんだよ、皆知ってる?」
しーーん。
「なんだよ~知らないのか。なんたら道の100選?そこの道路のいくつかをサザエさんが周るというか、そういうオープニングだった時期があったのさ。この道路オープンカーで走ってた。」
へえ・・・サザエさんが。スゴイのかそうでもないのかイマイチ判断しにくいエピソード。車内の雰囲気もどうしたものでしょう状態になりつつあります。こういう時はミネさんか誰かレスキューお願いします!
助手席の飯塚さんが窓を開けた。少し冷たい春の空気が車内を抜けていきます。サワ---と葉が揺れる音とともに花びらがヒラヒラ。
花吹雪・・・初めてみるけど想像以上、ずっとここにいたい。
「土曜の雨は花降らしの雨か・・・。」
飯塚さん・・・ボソっと素敵すぎる言葉じゃないですか?花降らし・・・ええ確かに、花が降っています、僕たちに。花降らしの雨は柔らかそうですね、水滴が。
「突き当りまでいってUターンしよう。車を停めて朝ごはんだ。腹減った~。」
飯塚さんがクスリと笑って言った。
「だろうな、口が尖がってる。」
「なんだよ、バカ衛。」
僕は真ん中にチマっとすわっているハルさんの顔を見ました。「ええ~またですよ、何気に大胆にイチャイチャしてませんか?」そんな顔をしたハルさん。呆れたような困ったような。
「サトル。あのあたりいいんじゃない?」
さすがミネさん、動じません。
道路脇の空き地に車を停めて、僕たちはようやく外に。
「うわ~~気持ちいい!」
思い切り伸びて空気を吸い込む。朝の空気が気持ちよくて美味しい。
「8:00過ぎると車だらけみたいだよ。姉ちゃん昨日その時間でそんな状態だったってさ。昨日は日曜でGW最終日だから駆け込みの人が多かったのかも。」
ハルさんは松の所に立って奥の牧草地を眺めています。いやダッシュであそこ駆け抜けたい。遠くに見える向こうの松のところまで何メートルあるんだろう、想像できません。
「正明、そっから先は入っちゃだめだからな。」
「え?そうなんですか?」
「そうだよ、そこは牧草地。ちゃんと種まいて育てているから畑と一緒なの。道路の反対側、あっちは牧場だから、もっとダメ。馬になにかあったら大変だぞ?賠償金で人生が終わる。」
「ええええ~。」
「馬馬トラックには近づくなだ。」
「理さん・・・なに言ってるのですか?ウマウマトラック?」
「正明覚えておけ、馬馬トラックというのは馬を運搬するトラックだ。これを巻きこんで事故ってみろ。馬一頭いくらすると思う?おまけに現役の競走馬だったらとんでもない金額だぞ?それが複数運搬される場合だってある。無理な追い越しは絶対しないこと、そして車間距離を保つこと。」
「こちらに来るときは理さんの運転でお願いします・・・。」
ミネさんは車の後部座席を倒してフラットにして僕たちの場所を作ってくれている。お手伝いせねば。
「サトル~。馬産地アルアルはそのへんにして、食べようぜ。綺麗な景色を見ながら食べるのはサンドイッチなり!」
パカパカとタッパーがあけられ、店のメニューのいくつかが顔をだしました。ラタトゥイユ、チキンとキノコのサラダ、ベーコンとパプリカのガーリック炒め、揚げ茄子のトマトソース和え・・・素敵すぎる。
「パンに好きなのを挟んでオリジナルサンドイッチを作るのどうかなって。手軽で美味しい、朝にぴったりじゃない?」
ぴったりすぎます!素敵すぎますミネさん!
「なんか、あれですね、パンの手巻き寿司みたいですね。好きな具を選ぶ手巻き寿司と似てます。うわ~楽しそう。僕は、なににしようかな?ミネさん、これ何種類か乗っけちゃってもいいですか?」
「おう、いいぞハル。すきなだけ選べばいい。」
それぞれが好みのサンドイッチを自分のために作って、桜を眺める。
緑とピンク、青い空と白い雲・・・青い空に溶けていくように舞っている花びら・・・。
すごいですね、春ってすごい。
綺麗で温かい、そして植物が芽吹く力強いエネルギーをもらえる。
キラキラ・・・美しいです。
やっぱり、ちょっと涙がでそう。
絶対翔を連れて来よう!
桜の写真をとって兄さんにメールをしました。『今度皆でここに来たい。』そう文章を添えて。
何かに囚われてしまった時、優しい気持ちを忘れそうになった時、僕はこの景色と空気、そしてSABUROの皆のことを思い出そう。
大概のことは乗り越えられる。
少しだけ優しさとその先にある強さを得られたような気がする・・・そんな春の朝。
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