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may.15.2016 一年に一度 4
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スーパーに買い出しにいき帰ってきたら時計はまもなく11:00。結構グズグズしてしまったらしいが遅れを取り戻すしかない。キイに教えてもらった時にまとめたメモを読みつつ準備を始める。
ヒロのところも俺と大して変わらない備品だ。電子レンジに突っ込んでもいいボウルを買う必要があるな。キイが言うにはガラスがいいですって事だった。メモったはず・・・ええと、あったこれ、パイレックス?パイレックスくださいと言えば通じるのか・・・わからん。
集中力に若干欠けた感はあるが、みじん切りは上手くいった。闇雲じゃダメ、何事もコツですか。物事は全部それで問題解決かもしれないな。
おお~いいじゃない、上出来上出来。ローストした松の実と生のバジルは割愛した。オレガノの瓶を使い切ってから手をだすことにしよう。
ソーセージを切って、ニンニクのみじん切りに取り組む。玉ねぎ以外のみじん切りはまず薄くスライスする⇒それを糸状に細く切る⇒それを細かくする メモにあるようにチマっとしたニンニクをスライスする。どう見ても厚いが初心者だから許してもらおう。ソーセージとパスタの分を用意して、あとはヒロが帰ってきてからにすればいい。手順の確認・・・お湯を沸かす間にソーセージを仕上げる。パスタを投入、茹であがるまでの間にソースを作る。バッチリだ、あああ!パン切ってなかった。
ドタバタしつつ、使った道具や食器を元通りに片付けた頃玄関のカギ穴がカチャリと音をさせた。
小走りにリビングに戻りソファにだらしなく座る-いつもの俺のように。
「ただいま。」
「おはよう。」
ヒロは俺の顔をみて柔らかく、そして少し照れくさそうに笑う。おはように必ず返ってくるこの顔が好きだ。
まあ、顔だけじゃないけど・・・馬鹿モード継続中。
「なんかいい匂いする。」
「おう、ホットサンドは今日俺が作るから。」
「へえ~。キイちゃんのところでテイクアウトしてきた。」
格段にいい香りがすると思ったら・・・プロには勝てない。くそう、そうくるとは思わなかった。どうやら用事というのは買い物だったらしく、紙袋をぶら下げている。
「ビール飲むか?」
「ああ、悪い。買い置きないんだ。買い物にいかなくちゃいけない。」
「俺がさっき買ってきた、それよりヒロ。」
手招きすると「何?」という顔をしつつ、ちゃんとこっちに来る。こういうところが可愛い、俺もこのくらい素直になれるといいのに。俺の前に立つヒロの腕を思い切り引っ張るとヒロがよろけてソファの背に手を置いた。その身体を膝の上に引き降ろして腰まわりを抱き寄せる。
「ちょっと、儀。なに、朝っぱらから。」
「朝イチで言おうと思ったのに出かけやがって。」
「買い物があったんだよ。」
「俺も誘え、朝一人だったんだぞ。あんまり気分のいいもんじゃないな、あれは。」
ヒロはクスリと笑う。これも好きな笑顔で細める目がまたいい、絶賛バカ継続中。笑いたければ笑え。
「誕生日おめでとう。」
ヒロの細められていた目が見開かれたあと、また細くなってコテンとお互いの額が合わさる。近くに見える瞳の表面はいつもより輝いていて嬉しいと言葉以上に俺に伝えてくる。何度も言った事のある「おめでとう。」
17歳の頃からの付き合いだ、誕生日に飯を食ったこともある、飲みに行った年もあった。
ヒロの店を閉めて飲みなおしたのは幾つの時だったか。でもヒロがこんな顔をして「おめでとう」に反応したことはなかった・・・いや、反応を確かめただろうか?返ってくる「ありがとう」にどれだけの意味がこもっていたのか考えたこともなかった俺。ずっと片思いだったというヒロの言葉を信じれば、「誕生日だ飲むぞ。」と告げた俺はどう映っただろうか。プレゼントもなし、ただの「おめでとう」だけの誕生日。
何年もそうやって年月を重ねてきたヒロを思うと、愛おしさがこみあげる。いじらしくもあり健気なヒロ。
軽くキスをしてしっかりヒロを見詰める。
「・・・・よかった。」
「なにが?」
「ヒロが他のヤツに掻っ攫われる前で。」
「・・・儀。」
「・・・ほんとよかった。ありがとう気持ちを伝えてくれて。」
「儀・・・なにどうしたの?お礼を言うのは俺なんだけど、おめでとうをありがとう。」
くそっ!可愛過ぎだお前!ガブガブ喰ってしまいたい!
鼻の頭をカプっと齧ると頭をスコンと叩かれた。
「どんだけ腹減ってんだよ!馬鹿か!」
顔を真っ赤にしたヒロは俺の膝の上から降りてしまい、買ってきた袋を持って寝室にいってしまった。なんだよ、照れる顔もイチイチ可愛いじゃねえか、コノヤロ!30超えて可愛い?良いんだよ!俺が可愛いって思ってるんだから、誰にも文句は言わせない。
冷蔵庫からビールを出しテーブルにグラスと並べる。急いで鍋を火にかけてフライパンで炒め物に取り掛かった。
「すぐできるからビールのんどけよ。」
「ええ~~乾杯は?」
「ワインでしようぜ。ビールはウォームアップだ。」
プシュっと缶を開ける音がしたから素直に飲むことにしたらしい。パンにキイの言う「あたま」をのせて一皿目が完成。お湯がわいて塩!しょっぱいくらいの塩!そしてパスタは袋よりマイナス1分。ソーセージを仕上げてソースを同時進行。くそっ、焦るじゃね~か。キイは余裕ぶっこいてたのに、俺は全然だ。買えと言われたトングを使えばパスタの麺は簡単にまとまる。コツと道具ね・・・なるほど。
取り皿とフォーク。ブルスケッタを持ってリビングに行くとヒロが驚いたように俺の両手を見ている。
どうだ?驚いたか?
「儀・・・これなに。」
「ブルスケッタという料理らしい。まだあるから、これで終わりだと思うなよ?」
急いでキッチンにもどりパスタと魚肉ソーセージケチャップ炒めを持ってヒロの前に立つ。ソファに座ったヒロは驚き100%の顔で俺の顔と皿を交互に見ている。その顔がこれまた可愛い。
「なんだよ、子供か?俺が作るってそんなに意外か?」
「当たり前・・・じゃないか。想像していなかったし、ええ?なんで?どうして?」
「どうしてって、そりゃあヒロの誕生日だろ?格好いい類のものじゃないけど、俺なりのサプライズってやつかな。」
「まずい・・・嬉しすぎる。」
別に泣かすつもりはなかったのに、ヒロは目を赤くしながらぴょんと立ち上がった。大股で突進してきて俺に抱きつく。
「おい!こら!皿持ってんだぞ、俺!」
「なんだよお前!こんなこと黙ってるなんて!!!猛烈に嬉しくて俺今死ねる。」
「死ぬな・・・バカ野郎。俺が可哀想だろうが。」
ヒロは「お返し」と言って俺の鼻をカプっと齧った。やべえ・・・喰いたい、可愛い。
でもまずは皿をテーブルに置いてしまおう。乾杯をして食べてから・・・その後でヒロをいただくことにしようじゃないか。
「いただきます。」
ワインで乾杯したあと、ヒロは俺の作った料理を大事そうに食べた。俺はこんなにきちんとヒロが作ってくれたものを食べていただろうか。少し反省したあと思う。いつもと違う事、相手にしてやりたいと思う事、それを実行して見える物が沢山ある。自分の中に埋まって消えてくれない嫉妬や束縛したいと渦巻く心、可愛い、優しい、愛おしい。ありがとう、おめでとう。ヒロが俺にくれる気持ちや言葉、そして表情。
欲張ってもいいんだな・・・・俺。
独り占めにしていいんだな。
「儀の誕生日は俺がなにか作る。これより美味しい物を作ってやる。でもいつこんなの出来るようになったの?」
「キイに教わった。」
「キイちゃんに?・・・ああ、それでか。」
「何がそれなんだよ。」
「ギイさんの本命はヒロさんっていう人らしいです。マスター知ってますか?って。俺知らんぷりするの大変だったんだから。何も知らないとはいえ俺にそんなこと聞いちゃってさ。キイちゃんはやっぱり可愛い。」
ケラケラ笑うヒロを見てまた思ってしまう。
可愛いのはお前だ、ヒロ。
ソファの後ろにつっこんであった紙袋を取り出しヒロに押し付けた。
「なにこれ?」
「なにって誕生日にはプレゼントだろ。」
ヒロはまたもや紙袋と俺の顔を交互にみるから、堪えるのは無理で抱き寄せた。
「悔しいが・・・ヒロはこういうの似合ってんだよ。不本意だが結局選んだらそうなった。」
ヒロは紙袋から中身をとりだして俺の顔をまじまじと見る。
「これREPLAYじゃない。それでこれVネックだよ?うわ~これ迷ったんだよね。袖がラグランの切り替えでポケットとここが異素材でさ。もう一枚、ああ!これも迷った!インディゴで染めてあるし襟がカットオフになっているザックリ感が気に入って。なんで俺の好みわかるんだよ。」
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんだ。まったく。」
ヒロは俺の腕の中からいなくなり寝室にいってしまった。仕方がないので後をついていくと、ヒロは持ち帰った紙袋からTシャツを取り出した。
「自分にプレゼントのつもりで買ったんだ。すごいよね!同じブランド!しかも全部俺の好きなデザイン!」
ヒロが飛びつくように俺に抱きつく。俺はしっかり腕をまわした。そうだよな、やっぱり似合っていて好きな物を着て笑っているヒロのほうがずっといい。俺の小さい器の中に押し込める権利はないということだ。恋人だからこその嫉妬、でも恋人だからこその信頼。
「儀!さっきの着てみる。」
「ダメだ。」
「なんで?」
「これから全部脱がせるつもりだから。」
背中にまわった腕の力強さに安堵する。俺はこいつが本当に好きで大事だ。そしてヒロもそう想っていてくれる。これって奇跡に近くないか?俺達ゲイだぞ?こんな幸せでいいのか?
二人でベッドに転がって服を脱がしあう。
俺を見詰める優しい瞳をずっと失わないように手を繋ぎ続けよう。
自分の狭い心を自覚しながら、ヒロを見詰め続けよう。
ヒロ、おめでとう。
そしてありがとう。
俺は誰かを想うという心を、お前にプレゼントしてもらった。
ヒロ・・・ありがとう。
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