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may.24.2016 火がボウボウ
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『突然炎のごとく』1962年フランス/監督F・トリュフォー
いきなりなんですか?って思いましたね?
僕の大好きJ・モローが出演しているあまりにも有名すぎる映画です。
内容はまったく今回の出来事に関係ありませんが・・・タイトルがまさしく僕の身にふりかかったといいますか・・・それで引用させていただきました。
興味のある方は是非一度ごらんください。見て損はない映画ですから。
「はい、皆集合!」
ハルさんとワイワイしていたら高村さんが色々両腕に抱えてSABUROに入ってきました。何だかとても嫌な予感がします。たぶん黙っていろと口止めされていた事に関係あるブツでしょう。
黒いプラスチックの筒・・・。代理店時代あれを持ち運んでいる営業やデザイナーを嫌という程見ましたので、中身は絶対にアレです-「広告宣伝物」
もれなく紙もの・・・あの筒に入っているとしたらポスターではないでしょうか。
嫌な予感しかしない。
「トアさん、一気に顔色が悪くなりましたよ。」
「ハルさん・・・高村さんが持ってきたのはこの間のスチール撮影に関係していると思います。」
「えっ。」
「どうやら僕達パンダちゃんにされちゃったかもしれません。」
「・・パンダ。」
「・・・残念ですが。しょうがありませんね。確かめにいきましょう。」
高村さんの所に何事ですか顔の面々が集まりました。一人冷静なのは理さん。やはり一枚噛んでいましたね、モンキー恐るべし。ミネさんはようやく答えがでるとばかりにすっかり目がキラキラしています。浮かない顔のハルさん、僕は同じような表情を浮かべているのでしょう。
飯塚さんですか?何時もの通り冷静に高村さんを見ております。同じ会社の時もこうやって向き合っていたのでしょうね。
「ことの起こりはミツの番組の2回目の撮影をした日だ。」
とりたてて何かありましたかね。全然思い当たる節がありません。
「あまりにこの店では日常になっているから俺もまったく気にした事がなかったわけだが、ミツとちびっこかキャッキャしている姿をカメラマンが見ていた。
友達でもない、同僚にしてはもっと仲が良くて親密な感じ。あ~同性のカップルって特異なものでも何でもなく日常なんだな・・・そう思えたらしい。」
「はああ?」
僕とハルさん同時に「はああ?」
思い切りかぶりましたが、そんなことに拘っている場合じゃない。
「それは相当な誤解だと思いますよ!僕はともかくハルさんが迷惑でしょう。」
「いえいえ、僕のほうこそ、ごめんなさいトアさん。」
高村さんは僕達二人を見て言った。
「あのな、お前たちがカップルに見えたってことではなく、そのカメラマンが楽しそうな二人を見て感じたってことなんだ。それをメッセージにした広告をつくれないかとレンタe-zoの社長に相談したことから話が転がり始めたってわけだ。そして一連の広告物ができあがったってわけ。」
ええと・・どういうことでしょうか!
高村さんはテキパキPCを立ち上げDVDをセットしました。またもや・・・映像ですか。
柔らかいオルガンの音がBGM。
そこに映っているのは僕とハルさん。休憩中の一コマで、テーブルに向かい合って座りながら何事か話しをしている姿です。僕達の音声はありません。
そしてハルさんがDVDを取り出してテーブルの上に置きました。『チョコレートドーナツ』のDVDにカメラがパン。ああ~あの日でしたか。番組に使うって言ったのに!全然違うじゃないですか!
一言二言言ったハルさんがポロっと泣きだして、僕がそっとハルさんに手を伸ばすところになって初めてナレーションが入りました。
『思い出し泣き、あなたはそんな時間を知っていますか?』
白い画面に切り替わり、ふわっと文字が浮かび上がる。
~色々なカタチがここにあります。レンタe-zo~
そのまま映像は終わりました。まさか・・・ま~~さか、これ、TVCM?15秒スポット???
「高村さん・・・これって。」
「おう、見たまんま。15秒スポット。」
とりあえず手を伸ばして掴んだ椅子をひっぱり腰を降ろします。まずは落ち着きましょう、はい、深呼吸!もう一つ椅子を引きハルさんの腕を引くとストンと腰を降ろしてくれました。ですよ、まずは座って呼吸を整えて状況を理解しなくては。
「このスポットが流れるのは日曜のトアのコーナーがある日、番組の合間に枠をとる。あとは深夜滞にちょびちょび流すということだ。出稿料金とのバランスを考えたら妥当な線引きだと思う。そして第三回放映日から1週間、駅貼りと中吊り広告がでる。」
「駅貼り・・・中吊り。」
「そ、地下鉄のな。」
それくらいわかります。札幌で交通広告といえば地下鉄です・・・JRやバス、路面電車ではありません。一応元代理店勤務なわけですから、理解度は充分です・・・だからこそ、愕然です!が・く・ぜ・ん!
「そしてこれがポスター。シンプルでいい出来だ。」
ポスターは真っ白の画面で背景もなにもありません。デニムを穿いた僕とハルさんの後ろ姿。ハルさんは白いシャツ。僕はダンガリーのシャツ。二人の肩が触れ合っている・・ようは寄り添う二人の後ろ姿が真っ白の画面に浮かび上がっている。
上部のスペースにはコピー。シンプルなゴシック体。僕が思うにあれは「HGPゴシックM」ですね。
『映画には色々なカタチがある』
下のスペースにはレンタe-zoのロゴと住所などの店舗情報がシンプルに置かれていた。
「見る人がみればメッセージ性のある広告だと思うでしょうね。」
ここでようやく理さんの発言。ごもっともです。色々なカタチ、その画面には僕とハルさんが寄り添っている。おまけにCMの映像にでてくるDVDは「チョコレートドーナツ」なわけですしね。
「ただな、本人の了承を得ないまま進めたことに関しては俺にも責任があるし、ミツはともかくちびっこは断りたいと思うだろう、当然だ。だから代案もある。」
取り出されたポスターはTVCMの映像がベースになっていてコピーは思い出し泣きに差し替えられていた。広告は見る人の好みも大きく影響されますから、どっちがいいとかそういうのって難しい。それに100万円つぎこんだら100万円分の集客につながるかなんて正直誰にも答えられない。
「僕の意見言います。」
ハルさんはビックリ顔ではなく真剣な眼差しで高村さんを見詰めています。誰も何も言わずハルさんの言葉を待ちました。
「ゲイである僕にとって、この広告がどの程度影響するのかわかりません。積極的にカミングアウトしてきたわけじゃないので、僕がゲイだって知っている人は少ない。これを見て「北川ってもしかしてソッチ?」なんて言う人がいるかもしれない。
でも・・・僕がゲイだって知っている人達、特に同じゲイの人達はきっと応援してくると思うのです。声高に応援というより心の中で。世の中の風潮に色々なカタチを認めようという動きが出ている反面、嫌悪する人のほうが多いのが現状です。
だから僕は代案のほうじゃなく、白い方で問題ありません。僕とトアさんの姿を見てカメラマンさんが考えを変える切っ掛けになったのなら、この広告を見て何かを感じてくれる人がいるかもしれない。
色々な映画を見て世界を広げてくれる人達がいるかもしれない。
だから・・・僕は大丈夫です。」
ずっと腕を組んで無表情だったミネさんがハルさんをヒタと見据えました。
「おじさんに騙されて、俺の為だとかいう戯言にこだわってんなら断っていいんだぞ。確かに店の集客にプラスになるかもしれない。でもさ、ハルの生活を犠牲にしてまで客の数を増やそうなんて気は俺にないよ。それはSABUROのスタッフ全員がそう思っている。
だからね、ちょっとこれはおじさんに俺はクレームだね、なんかスッキリしない。」
「実巳・・・それは認めるよ。ちょっと突っ走った感は否めない。」
「わかってんならなんで?」
「SABUROが色々なカタチを許容できて、どんな層にとっても特別な場所であってほしいという俺の願いがな・・・少々個人的すぎるからかもしれない。」
「どういうこと?」
「いずれはな・・・言わないといけないと思っていた。ここには飯塚と武本がいる。ちびっこはゲイだとスタッフ皆に伝える勇気を持っていた。俺は昔の事だし、なかった事にしようと随分捏ね繰り回したが・・・消えるはずがないんだよ。一度生まれた感情を忘れることはできないってことだ。
俺と俊己の間にはプラトニックだったが確実に友情以上のものが存在していた。」
「えっ・・・。」
「逢ったこともない自分の叔父の昔話としては、ちょっとな・・・って内容だが事実だ。今の生活、かみさんがいて子供がいる生活に不満も後悔もない。これでよかったと思っている。何が何でもお互いの気持ちに蓋をするぞって足掻いた俺と俊己の努力のおかげだ。でもな・・・そこに後悔がないとは言い切れない。」
「なんて言っていいやら・・・なんだけど。」
「当然だ。勝手は充分承知している、私情が入りまくっているのも理解している。心のどこかに俊己のことを肯定したい、かつて否定した自分を認めてやりたいってな。
実巳が怒るのは当然だ、悪かった。」
誰も口を開かないまま沈黙が僕たちの間に重く漂っています。何をどう言えばいいのか・・・理解できるような、でもなんかスッキリしない、諦めちゃうのも違うし、万歳して受け入れるわけにもいかない。
なんだろう、どう整理すればいいのか僕の頭の中はゴチャゴチャです。
「トアはいいの?これが電波にのって、色々な人の目に触れる。レンタルショップにもこのポスターは貼り出されるだろう。不躾なコメントがブログに来る可能性もある。否定も肯定もしないスタンスじゃないとこの広告の意味がなくなるだろ?
いや、違うか。色々なカタチがあって、それを受け入れようというスタンスに賛同してますってことをちゃんと言わなくちゃいけないのか。」
ミネさんのいう事はもっともです。「いやいや、僕はゲイじゃないですよ。」そんなコメントをした時点で全てが台無しになります。
「ハルはどうすんの?街で知らない人に声を掛けられて「どっちなんですか~?」なんて聞かれるかもしれないし、知り合いからメールがくるかもしれない、疎遠になっているくせに電話を掛けてくる奴がいるかもしれない。」
ハルさんは床をじっと見ていましたがキリっと顔をあげてミネさんに言いました。
「大丈夫です。今までだってうまくやってきた。この広告の主旨に賛同できたし、スタッフとして協力するのって当たり前じゃないかなって言えばすみます。僕がゲイであるかストレートであるか、そんなことを興味本位に聞いてくる相手に、ゲイだって打ち明ける必要なんかありませんから。そこのラインを踏み外さなければ大丈夫です。」
「んじゃ、サトルと飯塚は?」
「ん~まあ、色々なカタチのひとつである自分だけど、純粋に広告として意味があると思う。たぶんこれはそれなりに話題になるだろうし、そこから広がる世界があるよ。例えばミニシアターと共同で上映会を開催しつつLGBTについて考えるイベントのような企画も可能だ。大きな会場なんていらないし、その会場の一つとしてSABUROを使うということもできるだろうね。ミネの心配は勿論わかるし、俺だって不安がないわけではない。でも攻めてこその成果があるっていう気もするんだ。飲食店らしからぬ動きができるSABUROこそ特別だって思えるしね。」
一切何も言わなかった飯塚さん。ふうと一つ息をついた後静かに言いました。
「SABUROが特別な場所になるということは他と違うことにチャレンジする必要があるのかもしれない。それには当然リスクがある。でも全員が同じ気持ちでいれば互いにカバーできるし守れると思う。
だから一人で抱えたり、自分だけで解決しようとか、そういうのはナシにしたいな。何かあれば全員で考えたい。そういう意味では高村さん、もう少し俺達を信じてください。部下だった時より柔軟になってますよ、なんせ日々自らの意志で考えていますから。ノルマとか1課や2課なんていうのではない別次元で先を見ているのが今の俺達です。」
高村さんはククっと笑った。
「やれやれ、俺も歳だな。ヤキがまわったか。」
「おじさん、まだ働いてもらわないと困ります。たしかに戦略に関しては任せっきりだし、それでいいと思っていた。でもね、スタッフ個人の生活や生き方に関わるようなことはね、事前に言ってくれないと困るな。俺はやっぱり全員の意志を確認したいよ。少ない数だからこそ、全員で進んでいきたいし。
んで・・・トア。ますます女性と縁遠くなる可能性が高まるけどいいの?これでちゃって。」
ですね。縁が逃げてしまうかもしれませんね。
でも僕はSABUROと縁が切れる方がずっと嫌です。皆と笑って進み続けたい。
「ええ、勿論です。縁?今更です。これをきっかけに瓢箪から駒みたいな出逢いがあるかもしれないですしね。皆で皆を守り続ければ、僕たちは大丈夫です。」
ということで予定通りの広告プランが実施されることになりました。決戦は金曜日ではなく日曜日です。
さて、僕の生活やハルさん、そしてSABUROに関わる皆にどう影響があるのでしょうか。
怖くもあり、ちょっとワクワク。
映画の内容とは違うのですが、まさしく 『突然炎のごとく』です!!
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<お詫び?言い訳?開き直り?w>
日曜からの交通広告出稿で、今日の段階でポスター納品してないの?とか
そもそもスチール撮ったの先週だったよね、デザインUPして印刷まで出来上がっちゃうわけ?とか
掲載期間1クール1週間だったっけ?など
散々利用した広告媒体なのですが、随分昔のことなので、すっかり忘れてしまいました。
よってかなりアバウトです(笑)
現在代理店やクライアントとして媒体に関わっている人が読んだら噴飯もんのグダグダ感だろうと思いますが、しょうがないねとスルーしてくださいww
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