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september.3.2016 カトラリーと白い象
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「SUNAO?スナオ?砂男?スネ夫?」
衛はがっくり半分呆れ半分の微妙な表情を浮かべて俺を見た。ちょっとボケただけじゃないか!
まあ、キレがあるとは言い難いクオリティーではある(認める)
帰宅してパジャマに着替えてワインタイムに突入して間もなく、衛がテーブルの上に置いたのは白い箱。箱には「SUNAO」の文字が印刷されている。
そこで俺のボケを披露したわけだが・・・空振りに終わった。
「開けろってこと?」
「だな。」
プレゼント?いやまあ・・・記念日であったりはするけれど俺に?なんだろう。
箱を開けるとそこにはカトラリーのセットが入っていた。手に取ると妙にフィットする重さと形。
「綺麗だな。それにおしゃれだ。ええとどうしてこれ?」
「村崎から聞いたか?」
「ミネから?何を?」
「北川の誕生日プレゼント。」
「聞いた聞いた、箸って言ってたけどな・・・まさかそれでカトラリー?」
衛はコクンと頷いた。ゴボウハンバーグ&味噌マジックが悔しかったらしい。おまけに正明の言う「素敵すぎる箸」と「お揃いの箸をオーダーしにいつか京都に行きますから」宣言。
俺たちの「いつか三十三間堂」も実現していないのに、箸のオーダーだと?とちょっと俺も悔しくなったことを認めよう。「いつか京都」に関しては俺たちのほうが先なのだ!
そして衛は箸に対抗してカトラリーを選んだということか。
このセットは2人分だし、俺たちで使えるからなかなかいいチョイスだと思う。日常に根差した点が更に高得点だ。なんといっても今日は「同居記念日」だしね。
「モノづくりの新潟燕三条で作られている。この形に一目ぼれした。」
「これを使えば衛の料理がさらに美味しく食べられそうだな。なんかあれだね、食べたり飲んだりする為の備品ばっかり買っているな~俺たち。」
「そうだな。リーマン時代と違ってスーツを買う必要もないし、店と家の往復なら服を増やす必要はない。光熱費や食費が折半になったし、賄いを食べるせいで食費は前より少なくてすんでいる。
収入は減ったけれど、使う金額が減ったせいで帳尻があっているし。
外で使っていた金額を二人で過ごす時間の物に使うのはいいと思う。」
「うん、俺もそう思う。」
充さんと打ち合わせに行く時にスーツを着るくらいだから、新調する必要もない。ネクタイやシャツが欲しいと思わなくなったし、気に入った服が少しあれば事足りる。
家で飲むためのアルコールにお金を使ったって知れているし、外に呑みにいくよりずっと安上がりだ。
俺たちは相手にプレゼントするというより、二人で使えるものを考えるようになった。気に入ったものを言い合い、二人とも気にいったら買う。
記念日は別。一人でいろいろ物色して「気に入った。」と言ってもらえる物を買う。
ミネへの対抗心から浮上したカトラリーか。でも使いやすそうだし、俺も気に入った。
よし、次は俺の番だ。
「はい、これ。」
「さて。中身はなんだろうな。」
包装紙をはがした衛はパッケージの写真を見て眉をひそめた。
「象?」
「そ、象。」
「象の背中にカトラリーが刺さっているのは何故だ?」
「衛の選んだのがカトラリーだった時点で俺は心の中でガッツポーズだった。」
衛は箱を開けて中身をテーブルの上に置いた。プラスチックの象は鼻がついていて背中の部分が空間になっていて物を入れることができる。四角い箱に像の頭がついているイメージ。
「これはカトラリー入れか?」
「そういう使い方もできるけど、象の鼻をよくみろよ、穴あいてるだろ?」
「あ、ほんとだ。」
「これ水切りなんだよ。食器を洗ってこれに立てると水が下におちて、象の鼻から排水される仕組みなわけ。シンクの脇においておけばいい。衛的に台所に置くのは嫌だというなら洗面所でもいいし。洗面台の歯ブラシ立てって下の部分結構汚れるだろ?
この象さんを置いておけば歯ブラシも歯磨き粉のチューブも入れられるぞ。」
衛はクスクス笑った。
「なんだよ・・・確かに高いものじゃないけどさ。なんかオオ!って思ったの、俺の直感がこれがいいってなったの!」
「いやいや、なんか可愛く見えてきた。この鼻からチョロチョロ水が出てくるのを見たいな。」
「俺も!ちょっとさ、水入れてみようぜ。」
俺は象をつかんで立ち上がり台所に向かった。衛は相変わらずクスクス笑っている。
シンク脇に象を置いてコップの水を注ぎこむ。
チョロチョロ
「うわ~鼻から水がでた!なんだこれ、ちょっと可愛く見えてきた。ちょっと間抜けなあたりが尚いい!
衛どうする?これ台所に置く?それとも洗面台?・・・な、なんだよ。」
象を指さしつつ衛を振り返った俺はとんでもなく優しい顔の男前に遭遇することになった。俺の弱い顔ナンバーワンの表情。
俺のことを好きだって噛みしめている顔。
この顔をされると体から力が抜けてしまいます。
「理。」
「なんだよ。」
「その象を選んでいる姿を想像して・・・鼻から水がでたって喜んでいる理を見ていたら。」
「・・・見ていたら?」
「とって喰いたくなるくらい可愛く見えて困っている。」
うきゃっ!
まもなく28になるっているのに、可愛いとか言われて何恥ずかしがってんの俺!
いや・・・可愛いとっかじゃなくて、衛の顔のせいだ。これ以上直視したらダメです、大いにダメです。
でもやっぱり俺も男なわけで、衛に負けないくらい俺も衛が好きなわけです、はい。
「同居記念日、約束したことあったよな。」
「ああ、あった。」
「象をどこに置くかより大事なことだよな。」
「そう思う。」
俺が手を伸ばすと衛に手首を握られる。手を握るをすっとばしていきなり手首拘束から引っ張りこまれた。ポスンと衛と俺の身体が重なる。
握られていないほうの腕を衛の背中に回してさらにくっつく。
「1年お世話になりました。」
「それはこっちのセリフだ。」
「また1年よろしくな。」
「1年じゃ許してやらない。」
うきゃっ!
うきゃっ!
「よし、挨拶も終わったことだし・・・。」
少しだけ身体を離して俺は衛の顎をペロっと舐めた。一気に熱を帯びた視線が俺にグサグサ刺さって体が熱くなる。
「衛。今日は俺のベッドにこいよ。」
「朝からそのつもりだ。」
返事をしようとした俺の唇は情熱的なキスで塞がれた。
燕三条のカトラリーや象はあっという間に頭から消えて、俺は衛以外何も感じなくなる、何も見えなくなる。
それは衛も一緒。
そう、俺たちは心身ともに一緒なのだ。
衛・・・俺だって1年で許す気なんかサラサラない。
お互い気の済むまで向き合おうじゃないか。
気が済む日が来るとは思えないけどね!
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