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november.7.2016 そして・・・2
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『私もう家につくので、じゃあ、また明日!』
そして電話が切れた。
『通話が終了しました。』そんなこと・・・機械に教えてもらわなくたってわかる。
坂口さんの声を聞いて、大丈夫ですよっていう口調が僕の中に入ってきた時「大丈夫じゃない」って思った。このままじゃだめで、僕が安心できなくて、この こみ上げてくるような、わきあがってくるような感情を潰しちゃダメだっ!だめだよ、絶対。
クローゼットに戻す前でコートはまだソファの背もたれに置いたままだった。それを急いで着ると玄関に行く。考えてちゃいけない、今日を逃したら取り返しがつかなくなる。その焦燥感は僕を外に押し出した。
「さむっ。」
外は当たり前に真っ暗だ。坂口さんの部屋の電気はついていたけれど、コンビニに行く程度ならつけっぱなしで出るはず。特に女性の場合は。
5分たって姿がなかったら行き違いだと思おう、また電話をかければいい。
ポケットに両手をいれてスマホを床の上に置いたまま出て来てしまったことを思い出した。でも取りに行っている間に行き違いになったら?
ザク、ザク
その音に目をあげると街灯の明かりに照らされた坂口さんが見えた。
「坂口さん!」
コンビニの白い袋をブラブラさせていた手が止まり、僕と視線が合う。少し安心、でも足りない。
「坂口さん!」
「トア・・さん。」
坂口さんは少し足を速めてこちらに向かってくるから僕はさらに坂口さんに近づく。
ようやく向かいう位置になって思わず「よかった。」と呟いてしまった。
「え?なにが「よかった」ですか?」
「ずっと心配していて、元気がなくて、僕は理由がわからなくて。何かしちゃったかなとか、それともしなかったのかなとか、それで、その・・・。」
坂口さんはふわりと微笑んだ。
「ごめんなさい、心配かけちゃって。なんだろう、私の知らないトアさんの姿を準備なしに見ちゃったからかな。私トアさんのこと・・・何も知らないんだなって・・・ただそれだけです、だから大丈夫です。」
また言った・・・大丈夫って言った。
僕の中にまた何か強い大きなものが沸きあがる。
「今日が終わりますね。でもまた明日から始まります。」
僕を安心させるため?大丈夫じゃなさそうな顔でそんなこと言うの?
言葉にできない
何を言えばいいのかわからない
何を言いたいのかすらわからない
自分自身を突き上げるような何か、そしてこの人を守りたいと思う強い想い。僕の手は勝手に伸びて、次の瞬間には坂口さんを抱きしめていた。
「と・・・あ・・さん。」
「大丈夫じゃないときは大丈夫って言っちゃ駄目です。」
坂口さんの体が強張ったあと力が抜けた。おずおずと僕の背中に回る腕。
「知らないトアさんだった・・・から少し残念だったり悔しかったの・・・かな、私。」
「僕も同じです。知らないのは残念です。」
「・・・ですね。」
「いきなりごめんなさい。もう少しこのままでいいですか。」
「・・・はい。」
外が寒くて暗くても、そんなことはどうでもよかった。ここは外で歩道の上で他に歩いている人がいても、そんなこともどうでもよかった。守りたい、抱きしめたい、その想いだけが僕をこの場に導いた。
「僕と坂口さんしか知らない時間だって・・・そんな時間だってありますよね。それを増やしましょう、ね?そうしてくれませんか?」
「・・・はい。」
本当は僕にとってあなたは特別な人ですと言えばよかったのかもしれません。でも今ではないと、そんな気がしました。
そのかわりもう少しこのままで・・・と願う。
坂口さんは僕の腕の中でじっとしていてくれました。
何も言わずに。
僕は言葉にならない言葉を飲み込み、それを伝えられない代わりに
抱きしめる腕に力を込めた。
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