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december.1.2016 大事な時間
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「ミネさんってちゃんとしてますよね。」
「ちゃんと?」
ミネさんの眉がピクンとあがった。「ん?なにが?」みたいな時にするこの顔・・・結構好き、えへへ。
僕が言った「ちゃんと」というのは生活に関してです。仕事は勿論ちゃんとしているのはずっと前から知っていますが、一緒に暮らすようになって本当にそう思います。
食事を大事にしているし、夜更かしだってあまりしない。朝は寝坊しないでちゃんと起きますしね。
村崎寮にきてから、僕もすっかりその生活に慣れてしまいました。明け方近くまでテレビやDVDを見ることもなくなりましたし、読書に没頭して気がついたら朝だったなんてこともありません。
いえ!あの!その・・・別に一緒に寝ているから自然とそうなったわけではなく、その前からですよ!言っておきますからね、その前からなんですってば!
ミネさんにムギュウと鼻をつままれた。
「だから何?」
キュっとつままれるの好き~えへへ。
続いてワシャワシャ攻撃をされたあと、ようやく話ができる状態になりました。
「規則正しい生活だなって。料理する人は時間が不規則で不健康なイメージがありました。夜も遅いし。」
「そういう面はあるね。体壊す人はけっこう多いし。」
「やっぱりですか。」
「朝何も食べないで仕事行って仕込みするだろ?んで忙しい時間をワ~っと過ごして賄いを食べる。ちょっと休憩して夜の営業になって、お客さんから「飲んでください。」なんてビールをいただいちゃったりしてキューっと飲む。満腹だと味見ができないから、お腹いっぱいにすることがない。だからアルコールはダイレクトに胃壁をアタック。夜の営業が終わって「軽く飯食って帰る?」とか「飲みにいく?」なんてことになって深夜に食事。昼の慌ただしい賄いとアルコールしか胃に入れてない状態で飲み食いするわけだ。んで帰って寝る。その繰り返しだろ?身体にいいわけがない。
肉体労働+暴飲暴食、さらに経営面の悩み、メニューの悩み、スタッフの確保、悩みという名のストレスがてんこ盛り。そして休みがあまりない。月に5日あるかないかの生活。長時間の拘束時間。健康でいるのが結構難しい環境だったりするのよね、この業界。」
あらためて言葉になると頭を抱えたくなる環境です。
「『朝飯はしっかりとる。帰ってきてから沢山飲まない、食べない。できることなら飲みにいかない。』これはオヤジがよく言ってたことで実践してた。オヤジがいた頃は仕事終わってから飲みにいったり結構したけどさ、実際自分で店をやり始めるとそんな暇というか心に余裕がないわけよ。考えることは一杯だし、出した答えが正しいのかもよくわからない。数字が伸びれば嬉しいけど、これが頂点で落っこちる前兆か?とか。数字が伸び悩めば対策が必要なんだけど、自分一人のアイディアには限界もあったりする。あげくバイトは簡単に辞めたりするし。飲みに行っても美味しくないし楽しくない。
缶ビール1缶のんでベッドにもぐりこめば睡眠はとれるだろ?保障がないから休めば即売り上げに跳ね返る。有給なんてないしね。そうなると自然に体を壊さない生活を選ぶようになる。オヤジの教育のおかげもあるけど。」
SABUROに来るまで居酒屋さんの人は夕方オープンに備えて15:00過ぎに店に来て、ちょちょっと仕込みして開店する。けっこう自由時間ありそうだな~なんて随分失礼な思い込みがありました。
朝から店にいってコツコツ仕込みをして、お客さんを迎えてバタバタする。それを1日続けて・・・次の日も・・・翌月も。
お金を稼ぐのはどんな仕事だって大変だけど、定年になったら店をやりたいとか言うおじさんいますよね。そんな甘くないよと言ってあげたい。
飲食店は大変なのです。開店は誰にでもできますが、店を続けていくのが大変で難しいのです。
現にSABUROの隣の店舗はしょっちゅう変わりますからね。
立地だけの問題ではないのでしょう。
「一人で暮らしていた時より健康になったと思います。」
「だろうな。コンビニ廃棄弁当を食べているようじゃね。別にコンビニが悪いってことじゃないくて、それだけになっちゃうと弊害があるってこと。
スーパーに行かないと旬の野菜や魚のことを忘れちゃうだろ?
あ~柿が出始めたんだな、今年のイクラ高いな!とか、季節を感じたいじゃない。景色だって地下にもぐっちゃえば寒いとか暑い以外気にならなくなるし。
忙しい毎日を送っているお客さん達に料理や店の装飾で「あ~こんな時期なんだな。」って感じてほしいよね。一人でやっていた時はそんな事まで考えられなかったけど、今は仲間がいるから皆のアイディアがある。俺も皆もお客さんもハッピーって、いい循環だよな。」
僕はこっそり心の中で言ってみる。「僕だってハッピーです。」
「俺が真面目な話してるのに、なんでハルはそういう可愛い顔してるのかな?何考えたか言いなさい。」
いや・・・そんなに僕わかりやすいですか?えええ~~!
なんとなくその場をごまかしたくなってテレビのリモコンに手を伸ばした。ニュースからドラマかバラエティの再現フィルムかわからないけれど、夫婦喧嘩をした場面が映っていた。
「あ~俺ね、こういうシーン、最近ダメージ食らうのよ。」
「夫婦喧嘩ですか?」
「そうそう、そして奥さんが実家帰っちゃうだろ?今まで全然なんとも思わなかったのにさ、最近はダメなんだわ。」
ええと、それって僕に置き換えて考えてます?えへへ。
「おい!ハル。いい度胸してるじゃないの?俺がションボリしているのに嬉しい顔ってどういうことなのかな?」
「いえ・・・でもちょっと嬉しかったです。僕が実家に帰りますってミネさんにとってダメージって・・・嬉しいかなって。僕の存在がミネさんにとって大事ですって言われたみたいな気持ちになりました。」
「なんだかな~。朝イチのおはようから寝る時のおやすみまで、俺けっこうハル~ハル~って言ってるのに伝わっていないの?」
いいえ・・・伝わりすぎております。
「ハルがいなかたらキンピラだって満足に作れなかったの忘れた?」
「いいえ・・覚えています。」
「あのキンピラのボケ味覚えてるだろ?それにね。」
ソファの上でミネさんは向きを変えて僕を見た。だから僕もちゃんとミネさんに向き合うために座りなおす。
「一人で暮らしていたときも朝ごはんはちゃんと食べていたし常備菜だって作っていた。夜更かししないで睡眠をとるようにしていたし、深酒もしていない。めったに飲みにいかない。生活が変わったように思えなかもしれないけど、全部劇的に変わったの、わかる?」
「劇的・・にですか。」
「そう、劇的に。」
ミネさんの指が伸びてきて僕の頬をツンとつついた。
「ハルがいるってこと。」
「僕・・・ですか。」
「そうだよ。美味しいですって笑う顔があって、同じドラマを見て「えええ!」なんて言ったりする。お疲れ乾杯をして沢山話をする。一人で暮らしているとね、自分以外に返事をする人間がいないの。独り言はしょせん独り言。電話やメールも会話かもしれないけれどやっぱり違う。
沢山の反応と会話が満ち溢れているんだよ、今の俺の生活にはね。それ全部ハルがいるからなの、わかる?それが俺にとってどれだけ大事かってこと。」
どうしてミネさんは正直に言葉にできるんだろう。恥ずかしいとか言わなくてもわかるだろ?は言わない。全部言葉でくれる。僕に正直でいてくれる。
「こっちおいで、ハル。」
そしてミネさんは言葉や心だけじゃなくて全部があったかい。それに触れると幸せだなって思えるから魔法みたいだ。
ミネさんにぴったりくっついて少しだけ僕も正直に言ってみる。
「ミネさんが浮気しない限り、僕は実家に帰りませんよ。」
ミネさんは僕の頬を両方ギュウと摘まんだ。
「俺の話ちゃんと聞いていた?このタイミングで浮気ってなに?なにそれ~攻撃するぞ?」
最近なにそれ~も嫌いじゃなくなったんですよ、ミネさん。
「僕がミネさんから離れることなんか絶対ないです。だから・・・実家に帰る時はミネさんの心が僕から離れたぐらいしか思いつかなくて。
僕だってミネさんとの時間はとっても大事です。ちゃんと言ってくれる言葉全部が僕の宝物です。
・・・だから浮気はしないでください。浮気も本気も嫌です。」
「ばかだな~ハルは。」
ギュウと抱きしめられて、やっぱり僕は幸せだと思いました。
僕と一緒にいることが大事だって、それは本心だってわかるから。二人とも大事なことが一緒だって事が・・・わかるから。
「さて、そろそろ寝なくちゃね。」
「ミネさん?」
「んん?」
「今日はミネさんのところに泊りに行っていいですか?」
ミネさんはちょっとだけびっくりした顔をしたあと素敵な笑顔をくれた。
「俺のところでいいなら喜んでお出迎えします。」
規則正しい生活はつまらない時間とは違います。僕たちが長くいられるように、そして毎日が過ぎていくことが大事だってことを実感するために必要なことです。
おやすみを言って、明日目が覚めたらおはようを言おう。いただきますをして朝ごはんを一緒に食べる。明日の朝を思い浮かべるだけで、僕はこんなに幸せだって思えます。
全部ミネさんのおかげですね。
・・・僕はミネさんが大好きです。
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