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「あんまり急でびっくりしたぞ」
ドアをあけてくれたアキの顔をみて、どんなに自分がアキに会いたかったのかを思い知った。思わず手を伸ばしそうになったけれど、さっきアキのシャツをつかんでいた男のことを思い出しやめた。
「いいにおいがする」
「お前は最初にここに来た時もそういってたな」
「コンビニだったから、変なワインだけどいいかな」
「いいよ、ありがとな」
こんな時間なのに、食べるものを用意してくれて有頂天になる。たぶんアキが僕のためにしてくれたということが嬉しいんだ。それに、とってもお腹がすいていることに気がついたし。
アキが僕に何かを指差している。それはスエットで・・・。え?着替?泊まっていくってこと?僕は急にうろたえてしまった。思わずアキの顔を見た。
「なんで?」
「なんでって、この時間でもう帰れないだろ、DVDみるんだろ?楽チンが一番だろう、家庭鑑賞は。
着替えろよ。俺のつまみとお前の飯を作るから、あと10分くれ。ワインもあけてくれるとありがたい」
「ありがとう」としか言えなくて、僕はそのまま隣の部屋にいった。これはアキのなのかな?
それとも誰かの・・・。
他の男のものだったらという可能性に思いついて、また僕の心は沈む。
他の男のものなら僕はこれを着られない。着る気もしない。
「これアキの?」台所にいるであろうアキに向かって言う。
「俺のだよ。ちょっとデカイだろうけど我慢してくれ。洗濯はしてあるから安心しろ」
僕は少し安心した。こんな風にいちいち考え込んでいたら、アキが不審に思うだけだし、僕だって疲れるだけだし。というかすでに疲れているけど・・・。
少し落ち着こうと自分に言い聞かせて部屋を出る。
「ちょっとでかいけど、大丈夫だな。腹減ってるだろう。食べようぜ」
テ一ブルの上にはおいしそうな料理が並んでいる。こんな時間なのに・・・。
嬉しいのと、ちょっと力がぬけて僕は床にすわりこんだ。
「ん?どうした?」
「アキ、めっちゃうまそう・・・」
迷わず手をつける。シンプルだけどおいしいパスタとサラダ。アキにワインを開けて欲しいといわれたことを思い出したけど、お腹がすいていたので、目の前の食事に集中する。
「お前、ちゃんと食べてるのか?」
「うん、ちょっと今日は食べるのわすれちゃって」
「忘れるなよ、・・・。」
本当に忘れていた。着替えることも忘れていたくらいだし。僕の家に食べるものなんてないし。
色々考えすぎていて何かを食べる気なんてしなかったのに、目の前にでてくると、食べられるものだ。
「最近仕事がたてこんでいて、けっこういっぱいいっぱいだったんだ。うわ~~ってなりそうだったんだけど、前にアキのところにきたとき、すごく穏やかになれたから、なんかここにこなきゃいけない気がして・・・。会社から戻ったらあんな時間だったから、迷惑だったかな?」
「迷惑なときは迷惑だという。久しぶりにお前の顔をみられてうれしいよ」
どうしよう。ダメだってさっき自分にいったじゃないか。これ以上はダメなんだ。
アキが嬉しいといっただけで、僕は何かが溢れてきそうになって、それを押し込める。
アキを困らせちゃいけない。
アキはちょっと困ったような顔をして立ち上がって皿を片付け始めた。
「僕が洗うよ」
「いやいい。下げるだけにするから」
テキパキ動くアキを見て、僕は東京行きのことをいうために来た事を思い出した。
「アキ?」
「なんだ?」
「ありがとう,,,すごく美味しかった」
東京に行かなかって言われてね。どうしたらいいと思う?
その一言がいえない。僕はアキの顔をみたけどなかなか口がひらかなかった。
言いたいことは全部ノドで止まってしまう。
僕が東京に行ったら、アキはどう思う?
寂しいって言ってくれるかな?
突然アキの手が伸びてきて、僕の髪をぐしゃぐしゃにした。
想像したとおり、アキの指はしなやかだった・・・。
「どういたしまして」と笑顔を浮かべるアキ
「うん」
僕はこの気持ちをアキに聞いてもらおうと思ったけど、やめた。だって僕自身がもてあましているし、認めることもできていないのだから。僕はアキを見ていられなくなって下を向いた。
「遅くなったら寝てしまいそうだからDVDでもみるか」
そうだった、DVDも見るんだった。僕は東京のことをまだ言えていない。
でもきっとDVDを見たら、言えるはずだ。僕はなんの根拠もなくそう思った。
アキにDVDを差し出す。
「会社の映画好きな子が、このトニ一・レオンはすごいっていうんだよ。何がすごいのか見たくなって。」
「俺のクライアントの女性スタッフが言ってた。このトニ一・レオンには濡れるらしい」
単なる会話だというのに、僕は過敏に反応してしまった。アキの手と唇を思い出して昂ぶった自分を思い出してしまったから。
アキは僕の様子が変なことに気がついたのか、気詰まりな空気が流れる。
アキの家にきたら心が休まるなんて気休めだった。
・・・そうなんだ、僕自身の問題なんだから。
アキはDVDをセットした。そうだね、このまま映画をみてしまったほうがいい。
少なくとも90分くらい、僕はアキのことを考えなくてすむ。
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