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㉖
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「アキはゲイなんだと思うと言った。そして僕はそれをなんとも思わなかった。
そしてあの時、アキが一緒にいたのは男の人じゃなくて女性だった。そして綺麗な女性だった。
僕はなんだか面白くなかったんだよ。君を盗られたみたいにね。ほら友達に彼女ができてつきあいが悪くなるとき、面白くなくなるだろ、あれだと思ったんだ。でもね、僕は・・・。」
核心が迫ってきて、さすがに言いよどむ。アキ本人を前にして自分の心に向き合わなくちゃいけない。
アキがまっすぐな目で僕を見ているから少し勇気がでる。
アキが僕の話の先を待っているように思えたから。
アキの視線を受け止めたけどそらしてしまった。
アキの視線は眩しいから、僕は自分の顔が赤くなるのを感じる。
「僕はアキがあの人をどんなふうに抱くんだろうって思ったんだ、ほんの一瞬浮かんだつまらない興味のはずだった。でもそれはしつこく僕を悩ませた。アキがどうやってイクのか、どんな声をだすのか、どんな風に相手に触れるのか。頭が可笑しくなったのかと思うほどだったよ」
さすがにアキに抱き寄せられることを想像して昂ぶったことは言えなかった。
「僕は自分で自分がわからなくなって・・・。アキがあの人をどう抱くのかが僕の頭を駆け巡って、僕は彼女を抱くことができなくなった。そして・・・別れた」
アキがびっくりした顔で僕を見る。そうだよね、驚くだろ?アキ
「そして僕が夜遅くに押しかけたとき、東京出向の打診があったってことをアキに言おうと思ってたんだ。
でもその前に見てしまったから僕はうろたえた」
「何をみたんだ?」
「仕事の打ち合わせでアキの会社のある駅に行ったんだ。打ち合わせが終わって八時ころだったんだけど、出口の裏側にアキに良く似た背中を見たんだ、だから時間があったらご飯でも食べようかって、そう思って、そして近づいたんだ
そしたら、アキは誰かの頬を両手で包んで何かを話していた。
さっき僕の頬に触れたみたいにしてね・・・。
相手の人はアキのシャツを握って、そして泣いていた。
アキは何かをいい聞かせながら彼を抱きしめた」
アキの顔がうろたえる。困らせるつもりはないんだ、ごめんねアキ・・・
「そうなんだ、僕あそこにいたんだよ。あの綺麗な女性の時には思わなかったことを僕は思った。
同じ男ならなんで僕じゃないんだと」
「え?」
「僕はそれまでの自分の混乱の意味が少し見えた。でも押し込めた。アキは誰と付き合っているのだろう、どの人が一番なんだろうとか東京行きの話とか、なんだかどうしようもなくなって、アキの顔をみたら解決するような気がしたんだ。アキがイズミって笑ってくれたらざわめきが収まるっておもった」
僕は壁に体もたれてひとつひとつ思い出しながらゆっくり話す。
アキもう少しだから。もう少しこのまま聞いて。
「夜遅いのにごはんまで作ってくれて・・・。おいしかったな」
「お前の腹を満足させていない女は彼女の資格なんかないと内心怒っていたんだがな」
アキ!どうして君はそんなに僕に優しいんだ?期待しちゃうじゃないか。でも知ってる?
期待したぶん裏切られたら絶望するんだよ。僕は力なく微笑んだ。
「そうだったんだ、アキ。なんだか可笑しいね。でも僕はもうそのとき彼女と会っていなかったんだから、彼女を責めるのはお門違いだよ」
「俺はいつだってお前を心配していた。気にかけてた」
「そうだね、だから僕はアキに甘えたんだ。何かが解決するかもしれないと思ってアキの顔をみたけれど、言葉が必要だった。でも僕は何をどう説明していいのかわからなかった。
自分にも説明できない状態だったから当たり前だね。
持ってきたDVDは恋愛ものだから、僕はなぜか成就するスト一リ一だと思い込んでいたんだ。
僕の好きなトニ一・レオンは映画の中で言葉にだすより雄弁に愛を語っていた。そして僕は怖くなった。
映画の中のトニ一のようにアキが僕を見てくれたらって気がついたからだよ。その意味はもう明確だった」
「和泉、お前、いず、み?」
アキが熱っぽい目で僕を見る。トニ一・レオンみたいに。
「聞いて。アキ」
アキ、もう少しだから・・・お願い
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