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「映画が終わってアキをみたら、アキは僕なんかみていなかった。
熱をおびた目を薄く開いて、この部屋にもいなかった。
違う誰かを見ているみたいだった。
アキが僕を見てくれなかったら?という可能性に初めて気がついて、怖くてたまらなくなったんだ。
だから逃げるように隣の部屋のベッドにもぐりこんだ。
そして決めたんだ、東京に行こう。
逃げ出そう。
そして平穏な時間をとりもどそう。
今なら間に合う、まだ僕は引き返せる。
それがとっても正しいことに思えた。
それからはアキが知っているように、いっさい連絡をとらないことに決めた。
引き返すために遠くにきたのに、引き戻されるのが嫌だったから。
もとの僕に戻るために自分を再構築しはじめた。
札幌のことを思い出さないようにして向こうの同僚と多くの時間を過ごした。
毎日が楽しいと信じた。
僕の気持ちを無かったことにしようとがむしゃらだった。
でもね、レンタルでDVDを選んでいても、アキと見た映画ばかりが目に留まる。
お客さんや同僚に「イズミ」と呼ばれるたびに心が痛む。
アキが作ったほうがうまいな、とパスタを食べるたびに比べる自分が嫌だった。
女の子を抱いてみたけれど、結局思い出すのは熱に浮かされた想像上のアキだったから効果はなかった・・・。無かったことにできなかった。
このままでいれば何も変わらないし、僕の想いは固まっていくばかりだった。
時間を重ねればだんだん薄くなっていくと信じたけど裏切られた。
そのうち毎日乾いている自分をもてあました。
逃げ出したら楽になると思っていたのに、毎日がただ・・・苦しかった。」
アキは黙って僕を見ている。
思わず手を伸ばしたくなるようなアキの姿に僕の心はざわめいた。
今までみたことのないアキの表情。やさしいアキじゃなくて、それは色を帯びた大人の男。
ああ、この目の前のアキが僕の腕の中にあるのなら、どんなことをしてでも離さないのに・・・。
僕のものじゃないのだから、そんな顔はしないで、お願いだよ
「もともと3年という約束だったから僕の期限は終わろうとしていた。
結局逃げたのに、また元に戻らなければならない。
そんな時、トニ一・レオンの新作公開を知ったんだ。
避けて通りたいところだったけど、やっぱり見てしまったんだよ。
また熱をおびた視線のチャウを見たかった。でもチャウは誰のことも見ていない虚ろな視線を複数に投げかける男になってしまっていた。
なんだか腹がたって・・・。こぼれたものはもうつかめないと言われても、僕には納得できなかった。
本当の意味で諦めることがどんなに難しいか、この3年で思い知ったから。
帰ったらアキに会いに行くことに決めた。
正直に言おうって。
12月の慌しいときに話すことじゃないと思ったから今日までまったんだ。
アキ、僕は・・・。アキに拒絶されない限り、諦められないんだ。
僕にはアキが必要なんだ」
僕は怖くて、アキの顔を見られなかった。こんなに長く自分の気持ちを誰かに話したこともないし
アキと出会ってから、自分のことをこんなに話したこともない。
アキ、本当に僕は君が好きなんだよ。それはわかってくれた?
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