アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
予期せぬ出来事
-
腰は痛い。でも……
「問題です。この漢字の読み仮名を答えよ」
「えと……」
「2秒経過」
俺のことを気遣ってか、ノートにデカデカと問題を書いてはクイズ番組みたいに出題してくる牧野。
「わ、わかんねーし」
「5秒経過」
しかも、真顔で秒数をカウントされる。
「うけたまわる?」
「……」
ぐいっと、仰向けになっている俺の顔に近寄ってくる手。
”バチン”
「痛ぇっ!! ちょ、牧野! 俺が間違えるたびにデコピンすんのやめろよな」
「”たまわる”が正解だ。間違えるのがいけないんだ。それとも、明日からあるテストで赤点をとりたいのか? 昨日の努力を全て無駄にしたいのか」
「無駄にはしたくないけどさ……」
額がヒリヒリする。
「あと、お前の腰痛が終わったら小テストするから」
スパルタ牧野先生、再来です。
* * *
「本当に大丈夫なのか?」
小テストも終わって日が暮れた頃、俺は牧野の家の玄関にいる。痛がっていた俺のことを心配してくれる牧野。昨日と今日で、冷たそうな見た目とは違って世話焼きな一面があるということを知った。
「日坂? どうした、いきなり笑って」
「いや、なんでもないよ」
「? ……そうか。あのさ、日坂」
「ん?」
「途中まで、送っていく」
「へ?」
そう言って、俺のカバンを奪って前を歩き始めた牧野の耳は、赤かった。
大きな背中が、赤い夕日を遮って影を作っている。俺はその影に重なって歩く。スタスタ、スタスタと。中間地点の学校の正門前を通るまで、お互いに何も話せなくて。昨日からずっと一緒にいたっていうのに、なぜか何も話せない。
いや、ずっと一緒にいたからかもしれない。
それは単に、一緒にいたから話す話題が尽きたとかそんなことではなくて、まだずっと一緒にいたいという感情が、そうさせているのかもしれない。牧野と離れるのが、寂しい。
「夕日ってさ」
オレンジ色の光が、弱気にさせる。
「こんなにも寂しい色を、してたっけ」
ポツリと、こぼしてしまった。そして、目の前を歩いていた背中が動かなくなった。上を見上げる前に、大きな手が俺の頭を少しだけ乱暴に撫でた。
「明日また、会えるから」
ぼそりとそう言ってくれたのがわかった。
顔は見えなかったけれど、きっと、優しい顔をしているんだろうな。
* * *
「あ、じゃ、俺の家もうすぐだから」
家の近くについたので、牧野から俺のカバンを受け取る。さっきまでオレンジ色だった住宅街は、薄暗くなり始めていた。
「あのさ、牧野」
「ん?」
「勉強とかいろいろありが「翔!!」……」
牧野にお礼を言おうとしたところを、突然何者かに遮られる。誰かと思い、声のした方へと振り向く。
「和希(かずき)くん?!」
見覚えのある人物が、手を振りながら俺たちの方へと駆け寄ってくる。
「久しぶりだな、翔!! こんなチビだったのが、成長しちゃって」
「でも、和希くんの身長はまだ越せてないや……」
横斜め上から、視線を感じる。ちらりと見れば、牧野が眉間に皺を寄せて和希くんを見ていた。
「牧野、この人は俺の幼馴染の和希くんだ。俺が小学生の時に一緒に遊んでくれたんだぜ」
「ふーん」
眼鏡越しに見えたのは、興味がなさそうな目だった。
「翔、お友達?」
「う……うん、牧野って言うんだ!」友達というか、それ以上の関係なんだけどね。でも、そんなこと言えねーし……
ごまかしていると、牧野が口を開いた。
「どうも、日坂とは仲良くさせてもらっています。牧野です。」
愛想笑いだった。
「へー、”日坂”ねー。おれは”翔”と昔よく遊んでた中村和希。大学生だ。よろしく。」
「牧野、和希くんは教師目指してんだぜ! だから、わからないことがあったら、一緒に勉強を教えてもらおうぜ!」
「……さっきまで俺に教えてもらってただろうが」
「あはは! そうだな! じゃ、明日のテスト頑張るから、牧野も頑張ろうな。またな。」
「またね、牧野くん」
「……」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
99 / 130