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アイツ
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「おはよう!牧野。」
来た。奴が来た。俺は、教室の隅の席で身構えた。
「何? 何か今日元気ないじゃん。俺も実は今日はブルーな日なんだよねー。ちょっと聞いてよ。あのさ、隣のクラスの瑞希ちゃんって子からさっき告られっちゃってさー。でも、その瑞希ちゃんには、まだ別れてない彼氏がいたんだよ? 信じられる? 俺、巻き添えくらってさー……」
楽しそうに今日もベラベラと喋ってくる。
よくもまあ、そんなに沢山話せるもんだ。
朝の朝礼後、俺は同じクラスの日坂 翔(ひさか しょう)に捕まった。
そしてその可哀想な俺の名前は、牧野 智(まきの とも)。某私立高校の二年生だ。日坂とは、二年生になって初めて知りあった。元々無口な俺は、誰とも話さずに、教室の隅っこの席で本を読んでいるだけのつまらない奴だった。だから、一年生の時の友達は、昔からの幼馴染が一人と、ちょっと話せる奴が一人。それくらいしかいなかった。
な、の、に、だ。
いつの間にかコイツが寄ってくるようになった。日坂は、人懐っこくて人間関係良好、運動もそこそこ出来る容量のいいやつだ。それでいて、顔も中々整っている。女子のみんなはイケメンと奴を呼ぶ。そしてモテる。だが、俺からしたら、ペラペラとなんでも話す奴は軟弱な男にしか見えない。奴には、ストイックさがない。
簡単に言えば、チャラ男?
俺が奴の紹介をしているこの時の間も、ずっと話している。
瑞希ちゃん? 知るか、そんなの。
「あれ? 牧野どうした? 機嫌悪くしちゃった?」
ヘラっと困った顔をして俺を見てくる日坂。
「違う。」
掛けている眼鏡越しに睨んでやった。だが、怯むことなく奴は俺を見る。
「牧野ってさ。」
いつにもなく真剣な表情をして、俺の顔を至近距離で眺めてくる日坂。
「牧野ってさ、眼鏡とったらモテそうだな。」
「は?」
「あと、この髪も、セットして……」
ん? コイツは何を言っているんだ?
「あ、ごめんごめん。つい。あはは。気にしないで?」
残念なことに、俺がモテたことは一度もない。周囲からは、オタクだと勘違いをされることもよくあるし、コミュニケーションもろくに取れないのだから。
俺は、ため息だけをついて、1限の授業の準備を始めた。
「牧野?」
俺を見ている。
「何だ?」
「そのままでいろよ。」
「は?」
「いや、なんでもない。じゃ、俺も準備するわ。またな!」
そう言って、日坂は自分の席へと戻っていった。
出来れば、俺のところに来ないで欲しい。俺は、うるさいのはあまり好きじゃない。
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