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読書
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「牧野。」
息を切らしながら、牧野の席の近まで行く。彼は静かに本を読んでいた。そうだ。彼はいつもこんなだった。誰かと話すこともなく、ずっと教室の片隅で本を読んでいる。本が苦手な俺にとって、その行為が凄く格好よく感じる。
「牧野、さっきはごめん。」
俺が牧野の肩に手を置いて話しかけて初めて俺の存在に気づいたようだ。
「あ、ああ。別に。」
それだけ言うと、また本に目を戻し始めた。
これもいつものこと。
俺は、目の前の空いている席に腰掛けて、彼の本を取り上げる。彼は、名残惜しそうにその本を見つめる。
そんな目、俺には向けてはくれないのに。
「なんの本、読んでるの?」
俺は取り上げた本の表紙を見た。なんだかよくわからないけど、難しそうな本。
「夏目漱石。」
「え?」
「夏目漱石。」
「へー夏目漱石って千円札の人じゃん! えーと、タイトルは……草枕? なんじゃこりゃ。」
俺の反応を見た牧野は、ため息をついて机の仲を探り出した。
どうしたのかなと思い、その動作をただ見つめていると、彼の手には新たな文庫本が出てきた。
「え? どんだけ本持ってんの? マジック?!」
すごく睨まれた。
「ごめん。俺、馬鹿だからさ、本とか読めないんだよね。」
ニッコリ笑ってそういえば、牧野が口を開いた。
「馬鹿と言えるほど、勉強してないくせに。」
「え……? 牧野?」
それ以降、新しい文庫本の世界には入り浸ってしまった牧野が俺と口をきいてくれることはなかった。
別世界、か。
牧野の世界は、どんな世界?
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