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危機 5
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朝早くの教室には誰もいなくて、俺は牧野の席の前へと荷物を持ったまま歩く。
「日坂?」
俺の方を見て、不思議そうな顔をする牧野。
「どうせ荷物置いてすぐこっちに座るんだし、いいだろ?」
そう言いながら座ると「迷惑にならない程度にな。」と言って牧野も座った。
今日は、何を読むのだろうか。
夏目漱石かな。
俺は、得意気に言った。
「牧野! 俺さ、『こころ』読んだよ。」
カバンの中から教科書やノートを引き出しにしまっていた目の前の手が止まる。
「本当か?」
俺はそれを見てさらに得意気になる。
「うん。」
牧野は何かを考える素振りを見せたあと、恥ずかしそうにくすりと笑った。
「本、苦手だったんじゃないのか?」
「苦手だけど。」
「それなのに、読んだのか?」
「そりゃね、牧野が読んでたからだよ。」
俺がそう言うと、牧野は頬を紅潮させて他所を向いた。
「牧野?」
「いや、なんでもない。」
牧野の顔をを覗き見るも、目を合わせてくれない。
まあいいや。
俺は牧野と同じ時間を……同じものを共有したい。
それが俺の苦手なものでも、牧野が読んでいるってだけで特別になるんだ。
「日坂……」
「ん? 何?」
誰もいない教室。
俺と君だけの空間。
俺を捉えた牧野の目は、綺麗で。
いつの間にか接近している顔。
え?
微かに触れた唇。
キス……
された。
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