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帰り道
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今日もあんなことがありながら、放課後になると俺の席まで来る牧野。俺はその律儀さにどう対応していいのか困ってしまう。
「どうした、日坂。」
「い、いや、何とも。」
「じゃ、帰るぞ。」
そう言って、俺と一緒に帰ろうとする牧野。
「あ、きょ、今日は先帰っててよ。」
慌てて俺がそう言うと、不満そうな顔をして俺を見つめる。
もっとも、前髪がうっとおしくて牧野の顔はほとんど見えてはいないのだけれども。
「どうして?」
返ってきた声を聞いて、やっぱり不機嫌だということがわかる。
「いや、あの、今日はちょっと……用事があって。」
俺達がこのやり取りをしている間にも、クラスメイト等は教室を出ていく。牧野はそれらを見向きもせずにじっと俺を見る。俺は耐え切れなくなって机の上に置いたカバンを見つめた。
「日坂、もしかして、今日の奴と帰るの?」
「え?」
顔を上げると、やっぱりそこには不機嫌そうな顔をした牧野しかいない。
「今日の奴。屋上にお前といた奴。」
「そんな、まさか。」
とっさに俺は大きな声を出してしまった。幸いなことに、この教室に居残っているのは俺と牧野だけだった。
「じゃ、なんで一緒に帰れないの?」
問いかける牧野。
なんでだよ。
いつもは俺から話しかけないと黙り込んでいるくせに。
どうして、最近こう話しかけてくんだよ。
そして、俺は言うのだ。
「一人に……なりたい。」
一瞬だけ、時間が止まったような空気を感じた。
本当に一瞬だけ。
牧野は、ため息を一つ付いて「分かった。」と言う。それから、教室を去っていった。
悪いことをしてしまったのかもしれない。
俺から一緒に帰ろうと昨日誘っておきながら、自分の都合が悪いと約束を放棄して。
牧野を知るまではこんなギクシャクした関係を持つほど、誰かと関わってきたことなんてなかったのにな。どうしてしまったんだろうか、俺は。
一人苦笑いをして、昨日とは真逆の……つまり、真っ直ぐ自分の家へと帰ることにした。
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