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俺の恋人 3
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とうとう放課後が来た。井成に声をかけられる前に準備を終わらせようと急ぐ。
「まーきのっ」
だが、遅かった。声のした方を見上げれば、にっこりした表情の井成と目が合う。しまった、そう思った。本当は日坂と二人で帰りたかった。今日は俺が日坂の家まで送ろうとか、出来れば日坂の家にお邪魔させてもらおうとかそんなことを考えていたのに。日坂の方へ行きたくても、井成がさっきからベラベラと話し掛けてくる。適当に相槌をしているものの、早く話が終わらないかなと考えている。日坂の方をちらりと見れば、何度も同じ教科書とノートをカバンから出したり、入れたりを繰り返したりしている。
愛しい。
そう思った。
俺が一緒に帰ろうと誘うのを待ってくれているその姿が、とても愛おしい。
「牧野ってさ、よく日坂見てるよな。」
「え?」
「今も、チラチラ見てる。」
「そうか?」
「うん。好きなの?」
ハッとなって、井成の方を見ると、そこには初めて見る真顔があった。真顔というか無表情だ。
「……・」
俺は言葉に詰まった。こんな今日初めて存在を知ったような奴に俺と日坂の関係をバラすわけにはいかない。本当ならば、そうだと即答したかった。沈黙をYesだととった井成は、無表情のまま俺にこう告げた。
「実はさ、俺も好きなんだわさ。日坂のこと。」
「え?」
俺の問いかけも虚しく、すぐさま井成は日坂の方へと向かった。もちろん、あんなことを言われてしまっては、井成と日坂を二人っきりにはしておけない。荷物を手に取り、すぐさまあとを追う。
「なあなあ、日坂!今日、俺も一緒に帰らして!!」
俺が日坂の元にたどり着くよりも早く、井成がそう言った。その時の日坂は、井成を見ずに俺をじっと見てため息を吐いた。その時の目は、怒りが込められていた。
「……わかったよ。」
俺も俺で日坂が井成に許可したことに苛立ち、冷ややかな目で見つめ返してしまう。
「そう言えば、牧野と日坂って家どの辺何だ?」
ニコニコと、日坂に訊く井成。
「え? 牧野の家は校門出てすぐ右に曲がった道をまっすぐ行ったとこにある公園の近くで、俺の家は逆で、校門出てすぐ左に曲がった道をまっすぐ行ったとこにある住宅街にあるよ。
」
俺とは目も合わせてくれないくせに、井成とは目を合わせて話す。その態度が気に食わなかった。
「マジで? じゃ、俺は日坂の家の近くじゃん!」
ニッコリと微笑みながら言う井成も気に食わない。
下駄箱を出て、校門に突き当たる。俺は迷わず右に曲がる。その時に日坂が俺の方をふと見てきた。
心配だったから「送っていく。」と言えば、真っ赤になった顔を隠すためか俯かれてしまった。
「俺の家もうすぐ近くだから、ここでいいよ。牧野も帰りが遅くなるといけないし。」
住宅街が見えてきたところで、日坂が俺にそう言ってきた。正直、俺は日坂の家の玄関まで送り届ける気だった。それなのに、日坂が複雑そうな表情になってそんな事をいうものだから、そうできなかった。とどめに 「大丈夫だって。小学生じゃないんだから。」と笑われる。俺はしぶしぶ「また明日。」と言って来た道を戻るしかなかった。
一人で帰る道。さっき来た道。
とても寂しい。
一人でいることが当たり前だったのに、いつからかそれが当たり前でなくなった。日坂と一緒にいたいのに。今頃、井成に何かされていないだろうか。大丈夫だろうか。
気が気でなかった。
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