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足りないもの 3
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今日程学校へ行くのが憂鬱な日はあるだろうか。否、ないだろう。
「どうしたの? ため息なんて吐いちゃって。」
早朝、律儀にパン屋の前で待っていた井成が俺にそう訊く。寒そうに震えているのを見ると、結構前からここにいたのだろうと推測できた。どうせなら、寝坊してくれて良かったのに。ああ、そうか、俺が寝坊するという手もあったんだ。
一人悶々と考えていると、いきなり井成の顔が俺の顔に近づいていることに気づき驚いた。井成はそんな俺の様子を見てゲラゲラ笑っている。
「日坂、今日ボウっとしすぎじゃね? ほら、行こうぜ。」
そう言って、俺の手を取って前へと歩き出した。
「え? ちょ!」
俺のよりもひんやりと冷たい手が、しっかりと握ってくる。離そうとしても離れない。
「お前ボウっとしてっから、俺が導いてやるよ。」
八重歯を見せながらにやっと笑うその姿は、とても上機嫌だった。
目の前にある背中を見つめて、これが牧野とだったらなとか、牧野だったら手があったかそうだなとかそんな事を考えた。歩く早さも、井成は少し速い。だが、きっと牧野だったら無言で俺の歩くペースに合わせてくれているだろう。牧野はそういうやつだ。
いつの間にか微笑んでいたらしい。
「どうした? 突然にやけだして。」
いきなりにやけだしたら、そりゃ普通は誰だって不思議に思うだろう。井成も例外ではなかった。俺は何とも答えられなくて、なんでもないと言うしかなかった。井成も深く突っ込んでこなかったため、多分大丈夫だ。
それにしても、いつまで俺の手を離さないつもりだろうか。
牧野には……見られたくないな。
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