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足りないもの 4
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「お前さ、俺のこと忘れてただろ?」
ずかずかと歩く井成が突然俺にそう訊いた。こういう時、なんて言えばよかったのだろう。
「いいよ、嘘なんてつかなくて。」
忘れてねーよと言おうと口を開くと、そう止めを刺される。
「う、ん。まあ……ごめん。」
素直に謝ってみると、井成は少し切なげに笑って「いいよ。気にしてないから。」と言った。
「俺、井成と初めて話したのいつだったんだ?」
若干眺めの髪から覗く黒い瞳。
「一年の時だよ。クラスも一緒だった。」
返ってきたものは意外なものだった。俺はクラスメイトの顔と名前はほとんど覚えているつもりでいたのに。井成は俺の考えていたことを読み取ったのか付け加る。
「一応、俺、イメチェンしてるから。」
「イメチェン?」
「そう。騙されたと思って、家に帰って一年の時にとったクラスの集合写真を見てみろよ。一年の時クラスが一緒だった奴ら皆、今の俺を一年の時の井成だと気づかないほどだから。」
自嘲気味に笑って淡々と歩くその姿を見て、ぼんやりと思い出したような気がした。けれども、靄がかった記憶はあてにならなくて途中で思い出すのを諦めた。いいや、今日帰ったら写真を探して見てみよう。
それにしても、何でイメチェンなんかしたんだろうか。
「なあ、井成。」
「何?」
「どうして、イメチェンしたんだ?」
俺の問いに一瞬笑顔が引きつった。
「まあ、とあることが切っ掛けで変わりたくなったんだよ。よくあるだろ? そういうの。」
「ああ、高校デビューとかか?」
「ん……近からず遠からずだな。」
「ふーん。」
冷たい手が、俺の手を更にギュッと握った気がした。
気がつけば、俺たちは校門の近くに来ていた。そして、目の前には反対側から来ていた牧野が俺たちを見て突っ立っていた。俺は途端に握られていた手を振り払う。しかし、どこから来るのだろう強い力で握られたそれは離れなかった。
どうしよう。
これは、よくない。
「おはよう。」
凍りついた表情をしている牧野に最初に話しかけたのは井成だった。牧野は俺と井成とを交互に見て、それから無言で玄関へと歩き始めた。
やっぱりだ。絶対勘違いされてる。
どうしよう。
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