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足りないもの 10
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昼休み終了のチャイムが鳴ると同時に、牧野が息を切らして教室に入って来た。その姿がとても珍しい光景だったため、クラス中の奴らが教室の入口を見つめる。牧野は、俺の席を真っ先に見た。
目が、合う。
次の授業まであと10分。多目的室からなら、この教室まで来るのに5分もかからない。
「ど、どうしたんだよ、急に。」
俺はさっきのイラつきを忘れて、険しい顔で近寄る牧野にそう訊いていた。
「やっと、やっと話せた……。」
息を整えようと、目の前で深呼吸する牧野。俺はただそれを見つめることしかできなかった。
「日坂、次の授業俺に付き合って。」
「え?」
「大事な話が、あるんだ。」
何が何だかわからなかったがこの誘いを断ってしまったら、もう牧野と喋れなくなるような気がして、俺は頷いて席を立った。
教室に戻ろうとする生徒たちの流れに逆らって歩く、俺と牧野の二人。牧野が俺の前をスタスタと歩く。その間にも、ちらりとこちらを伺って歩幅を合わせてくれる牧野を見て、やっぱり井成とは違うなとか考えてしまう。
「どこがいい?」
階段についてから、牧野が俺にぼそりと言う。廊下には誰もいなくなっていたので、それがよく聞こえた。どこがいい? とは、恐らく今から授業をサボる場所について言っているのだろう。
「……どこでも、いい。」
どうしようもなくて、そう答えてしまう。
「そうか。」
「へっ?!」
牧野の声がするとともに、ぐいっと引っ張っられる感覚がした。慌てて引っ張ってくる大きな手を見つめると、牧野がこっちを見て笑っていた。走るぞと、声がした。
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