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足りないもの 11
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牧野みたいな奴が授業をサボるなんて、一体全体どうしてしまったのだろうか。俺の手を握ったまま離さない大きな手に引っ張られて、勢い良く階段を駆け上る。一番上の屋上の扉の前にたどり着くと、古びた扉をか細い音を鳴らして開ける。外は快晴。日が登っているため温かい。
キョロキョロと周りを見渡して、牧野はため息をついた。
「誰もいないな。」
どうやら、安堵からついたため息らしい。
扉を閉めて、お互いに座り込む。手は離されないで握られたままだった。その為、自然と俺は牧野の隣に座る。
「牧野。」
そろそろ聞いてもいいだろうか。牧野が俺と授業をサボった理由を。
「日坂はさ。」
俺が問いかけるよりも速く、牧野が話し始める。
「日坂はさ、どう思ってるんだ?」
「どうって……何に対してだよ。」
「……井成の、こと。」
「井成?」
突然井成の名前が出てきてドキンとした。横を見ると「そう、井成。」と真剣な表情をして言う牧野と目が合ってしまう。
「別に、井成はいい奴なんじゃないの?」
どう答えるべきなのか分からない。しかし、さっきの俺の答えが気に食わなかったのか、眉間にしわを寄せてそっぽを向かれた。
でも、手は握られたまま。
「いい奴……か。それが日坂の思っていることなのか?」
冷たい声だった。
「いい奴だろうが、誰がどう見ても。」
「いい奴だったら、お前がアイツとずっと一緒にいてもいいと思うのか?」
「は? 何意味わかんねーこと言ってんの?」
「だから、俺が嫉妬しないとでも思っているのかと聞いているんだ。」
嫉妬?
今、牧野は嫉妬と言ったか? 聞き間違いではないはずだ。
握る手に、力が入っているのが分かる。
「……嫉妬してんのは、俺の方だろうが。」
恥ずかしかったがそう口にすると、牧野が驚いた表情でこちらを向いてきた。
「お前、無防備だよな。友達作んないのかと思ったら、井成と話すときは楽しそうに笑ってるし。俺が初めて話しかけたとき、あんな表情してくれなかったくせに。」
ああ、本当に恥ずかしい。顔が熱くなるのが分かり、俯いて隠す。
「日坂、それ、本心なのか?」
さっきよりも近くから声が聞こえたのは気のせいだろうか。
「こんな場面で嘘つく奴なんていねーし。って!!」
気のせいではなかった。握られた手はいつの間にか重ね合わせる形になっていて、俺の顔の近くには牧野の顔があった。眼鏡越しに見える牧野の綺麗な目が、俺を捉えている。あまりにも真剣に俺を見つめるものだから、声を出せない。
「俺は、日坂が井成と仲良くしろといったから、仲良くしているフリをしていただけだ。本当は、日坂と話したかったし、一緒にご飯も食べたかった。二人っきりでいたかった。」
甘い吐息がかかり、なぜだかクラクラする。
重ねていた手とは反対の空いている手で、俺の頬を撫でる牧野。その温かさがこそばゆくて嬉しくて。昨日と今日しか牧野と二人っきりでいられなかった時間は無かったのに、久しぶりに牧野と触れた気がして、愛しい気持ちが一気に俺の中で溢れ出た。
これだよ、俺が求めていたのは。
足りなかった何かが満たされていく。
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