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すれ違い 10
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牧野とせっかく二人っきりになれたというのに、何から話せばいいのかわからなくて固まってしまっていると、牧野がため息を吐いた。それにぴくりと肩を震わせると不満そうな顔をされた。
「日坂、後で言うと言っていた事があるよな?」
「え? あ、うん。」
「今聞かせてくれないか?」
斜め前にあるのは、メガネの奥から見える真剣な目。
「……俺が言いたかったのは、今日井成と遊ぶ約束をした件についてなんだ。」
そうだ、俺はこのことを牧野に伝え忘れていた。事の発端はこれにある。
「まず最初に、昨日の帰りに牧野が先に帰って井成と俺二人になったときにさ、メアドを聞かれたんだ。それでお互いに交換し合って、その日の夜に井成から朝一緒に学校に行こうって誘われた。もし井成が真剣に俺たちと友達になってくれようとしているんなら、断る理由がないだろ?だから、俺は一緒に朝登校することにしたんだ。本当は牧野にこのことを伝えたかったんだけれど、俺、牧野の連絡先知らなくて……そして、まあ、朝になって……それから正門のところで牧野と会って……」
続きを話そうとすると、牧野が眉間にしわを寄せてこう言った。
「じゃ、あの手はなんだったんだ。」
「手?」
「繋いでいただろう、井成と。」
ああ、そうか。そう言えばそうだった。
「あれは、俺がボケっとしていたら井成が突然俺の手を引っ張って前を歩き出したんだよ。手、離してくれなかったし。アイツ、力が強いんだよ。」
俺の答えにも、納得はしていないようだったが、話を続けることにした。
「牧野がさっさと教室に行っちまった後、下駄箱で井成が突然腹痛を起こしだした。そして俺は井成を運んで保健室に行ったんだ。昼も、俺の携帯に井成から連絡があったんだ。」
「だから、俺に一言残して足早に去っていったのか?」
「うん。井成には、牧野とご飯が食べたいからって断りに行ったんだよ。でも、教室に戻ると牧野がいなかったし……」
「それは俺の話を最後まで聞かなかったお前も悪いぞ。あの時、お前の名前を呼んでまで言いかけたのに。俺は委員会があったから今日の昼は向こうで食べてくるって言いたかったんだが……」
「そうだったんだ……。」
「そうだ。……それで、どうして井成と遊ぶことになったんだ?」
「あ、ごめん。肝心なところが抜けてたや。昼に井成とご飯を食べるのを断ったら、井成と俺と二人で遊ぶ約束をされたんだ。俺、一刻も早く牧野のところに行きたくて……」
牧野を伺うと、またため息を吐かれる。
「4限、俺が話したこと、忘れたの?」
「え?」
「俺だって嫉妬する。」
「まき、の?」
「しかも、俺は井成から宣戦布告されてたんだ。だから、日坂と井成が一緒にいるところを見る度にイラついたし、嫌だった。」
グイグイと、俺との距離を縮める牧野。
「いつか、お前が井成のところへ行ってしまうような気もしていた。」
悲哀に満ちた表情で、迫り来る牧野。
「日に日に、俺の心は醜くなって。それでも、お前が好きで。」
牧野の顔は間近にあって、息がかかる。
「許せ、日坂。」
いつの間にか、俺は牧野に抱きしめられていた。
耳元で、牧野のか細い声が聞こえた。
「好きなんだよ、お前が。」
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