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天界からの使者(訳:敵わない人)
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漆黒の堕天使(訳:中二病の後輩)がとてもめんどくさい。
………漆黒の堕天使だって!はは!あいついつもこんなことばっか考えて生きてんの?クッソウケるんだけど!!
あんなに俺をウザがってたくせに、わけわかんないこと言い出して、毎日教室に遊びに来るし。漆黒の堕天使かっこ笑いの格好のまま、三年の教室にくるなんてある意味強いよな。なにそれ武装?って感じ。ぺっとりくっついてきてめんどくせー!
晴ちゃんとつるんでいても後ろにいるし、庄司とつるんでいても後ろにいるし、室井と喋っていても後ろにいるし、もーなんなの!重いって!
…思うんだけど、うまく振り払えないでいる。俺、依存系の人間大嫌い。それが男ならなおさらめんどくさいし。なのに、こいつなんかちょっと犬みたいじゃん、変な見た目の犬、中身は超素直、…面白いんだよね、それだけだ。それだけ。
久々にひとりの時間を手に入れた。っていっても今は授業中で、室井と晴ちゃんは仲良くご帰宅。トイレでいちゃついてんじゃねーよっていう。はは、室井のこと、晴ちゃん怒らせたんかな。朝わけわかんねーザコと喧嘩したから?ハハ、室井って可愛いよなー。晴ちゃん愛されてる!ヨカッたね!…なんつって。
「めーんどくせー。」
俺にしては珍しく、マイナスの言葉がふいに漏れた。いかんいかんと首を振るけど、めんどくさいもんはめんどくさい。なんでもプラスに考えりゃ人生楽しいよ、なんて偉そーなこと言いましたけどね、ええ。まぁ、そんな毎日毎日毎日毎日思考転換してちゃ疲れんのはあまりまえってなもんで。
はじめて駄犬を拾った校舎裏、そういえばあの頃は綺麗な桜が咲いていた。なんせ入学式だったしね。んで、俺は興味本位で喋りかけたんだ。
だっておかしいじゃん、変な奴だー!おもしれー!って思うじゃん。……………間違ったな。
誰かを許すことを許されない、俺は。
この先俺は、たくさんの人間を守るためにたくさんの人間を傷つけて、そういう運命にある。だから今を、青春を?楽しもう?とかいう安易な考えのもと、生きてる。
特別は要らない。いつか捨てなきゃなんない。なんで拾った、なんであんな、強烈なやつを拾ったの。ちょっと前の俺、大嫌い。今の俺が悩んでんじゃん、まじウケない。
あいつに、渡されたタバコ。よくそんなガキ丸出しの格好でタバコなんて買えたなって、おどおどしながら店員に「デュオください」なんて言ったの?想像したら超ウケる。
サクラの、俺の嫌いなサクラの花がモチーフのタバコ。女のタバコ。俺にタバコを教えたヒトのタバコ。味は薄くてまずいし、匂いだってショボいし、煙は多いし、ほんとクソ。そんなタバコを、俺はまだ吸っている。サヨナラを告げたときと同じ匂いがするから嫌い、ほんとこのタバコ嫌い、俺の初恋も肺の健康も奪ったから嫌い、だけどあの痛みを二度と忘れたくないから囚われたみたいに吸ってる。バーーーーーカじゃねぇのー?って、笑ってくんねーかな!だ!れ!か!
俺は俺みたいな友達が欲しいわ。なんでも笑い飛ばしてくれるような。だから要らねぇんだわ、あんな純粋な恋心なんて。困るんだ、まじ、どう困るって……無いだろフツーに。あいつ男、俺男、さらに俺には十年後はない。一般人に紛れこむのはオヤジが組長を辞めるまで。
期間限定で付き合ってどうすんの?ないない、はい、ないよー。だから切り捨てればいい、ここで。いや、まだ早い、…なんで?
そうやって生きてきたじゃん、なんで切り離せない。人工的に作られた、左右の色がちがう目の色が、いつも俺にまっすぐ向けられるから?
そんな理由?ウケるね。
ダメだ。
なんのために、なんのために俺はあの人にサヨナラって言ったんだ。なんのために初恋を嘆いたんだ。なんのために、まだこのタバコを吸ってるんだよ。
大人の女に憧れていた。
優しいから好きだった。
はやく大人になりたかった。
まだ、自分の生き方を定められないときに「じゃあ今を楽しめばいいじゃない」って言ってくれたあの人を、あの人、を。
「由美ちゃんって、呼んでたなぁ」
赤い唇が、すげー大人に見えた。
だから赤色大嫌い。桜の花も大嫌い。そんな俺の前に現れた漆黒の堕天使かっこ笑いは、どーみても漆黒じゃないし。なんか赤いし、名前桜だし。地雷でしかないんですけど。
あなたのすきだったタバコ、俺よりすきだったタバコ、真似したら「生意気ね」と笑っていたな。
別に、引きずってはいない。俺が選んだ別れを、「あ、そう?志摩くんが選んだなら仕方ないわね」なんてそんな言葉ひとつで、片付けた酷い女。
別に、引きずっては、いない。
恋愛感情は引きずってはない。ただ、もう二度と誰かを好きになるのはゴメンだと思った。
だから気づいている、この感情に蓋をしよう。
俺、察しがとてもいい。ははっ、大嫌い!
吸い込む煙は相変わらずまずいったらない。いい加減、タバコ変えようか。そしたら桜じゃなくなるな、そしたらあいつ、どんな顔するかな。
「なんや辛気臭い顔してんなー。雷蔵ちゃん」
「わー、庄司くんてまじ空気読む気ないっしょー」
「いやー、タバコ吸える場所探しとったらお前がこんなケツ冷えるとこでウンコ座りしとるから」
庄司文夜、十九歳、年上、チビ、すげー歌上手い、人間付き合いも上手い、俺より可哀想、でも俺より強い。尊敬してるよマジで、今俺の右隣にウンコ座りをする図太い神経もなにもかも。
「いーの?そっち側すわって。」
「あーん?何がやねん。どこ座っても俺の勝手じゃアホ」
そうやって笑って、タバコに火をつける。実質先輩の庄司くん。すげーチビだけどすげー男気あるし、組にスカウトしてーぐらいだよ。嘘だけど。
「なぁ、わざわざそこ座ったっつーことはさ、俺の話でも聞いてくれんの?」
タバコの火をコンクリートに押し付ける。黒くなるコンクリート、指でこすりながらそう言うと、庄司くんは首を傾げて「なんで?」と言った。
「ぶはっ!なんでって!」
「嫌やわめんどくさそーやもん、お前」
「じゃあなんか笑わせてよ」
「笑ろとるやんけ、ぶっさいくやな」
「はぁ〜?俺超かっこいーっしょ!見てみこの狐のように愛らしいお目目を!」
「よう言うたわ。あ、ちょっとライター貸してな。」
許可を出す前に、ポケットから出したセブンスターに俺のライターで火をつける彼、まじ神経図太いね!
「ふぅ。ヤニ切れはきっついなー。学校おったら自由に吸えんから余計に」
「あんた本来、去年卒業してないとおかしいけどね!」
「うっさいわブス!その唇ふさいだろか!」
なんで留年したの?ってきいたら「パチンコのしすぎ」って答えた新学期を俺は忘れないよ。ほんっと、上手いよね。自分の核心に触れさせないその誤魔化し方。
「どーやったらそうやって上手くやってけんの?」
「なんやねん、結局人生相談かい」
「何?庄司くんもその気だったんでしょ!笑ってんじゃん!人生の先輩として教えてよ」
「アホか。お前は十分きっしょいから安心せぇよ」
「俺、庄司くん好きだなー」
「はいはいブスー、全然かわいないわ。ちんことって身長20センチ縮めて出直せ」
「それでもあんたとそんなに変わんないね!」
「どついて回して道頓堀に沈めたろか!」
「なにそれ大阪!」
流石大阪人!と茶化すと。きっつい目がこっちをむいた。すげー三白眼、身長さえデカけりゃだれもあんたに近づかないほど迫力あるよ。茶色い目が、じっと俺を見つめて。俺は耐え切れなくて自分のタバコに火をつけようと箱をとりだす。すると庄司くんの手が伸びてきて、それを阻止した。
「気分転換に、こっちどう?」
よく分かってらっしゃる。
庄司くんの吸ってるセブンスター、ソフトケースのそれを差し出されて俺は思わず笑ってしまった。
やっぱさー、この人には全然敵わない。
「いただきます。…つーかこれタールやばいんじゃないの?」
「知らんわ、俺はずっとこれやから。お前女タバコやろ、なにそのカラフルな箱。かーわいー」
「ばっかにしてんのー?コレ超まずいからね!」
「ほー。ほんでもタバコ変えへんねんな。ええんちゃう別に」
庄司くん。まじ、エスパー?
俺は笑うことも忘れて、それを誤魔化すように庄司くんのタバコに火をつけた。セブンスター、おっさんの好きな奴ってイメージしかない。
「ごほっ、ごほ!うわ、なんすかこれ!すげーーーまずい!」
「…ま、そういうことや。慣れ親しんだもんが一番やな、どんなに不味くても、新しいもんに慣れるには時間かかるし」
「………意味深〜」
「どう捉えるかはお前の勝手やけど。」
たった一つだよ。たった一つしか違わない、そんな彼の言葉が胸にすとんと落ちた。
「ほんで、なに悩んでたん」
「白々しいよ〜?もう解決した!」
「あーそう。ほな俺の話も聞いてくれへんか?むっちゃムズムズしてんねん!話したくてたまらんねん!」
「あ、それ目的でテンションガタ落ちの俺の隣すわったの?まじ嫌な男!」
「当たり前やろ!貰ったもんは三倍にして返せよ雷蔵ちゃん」
「まじいい性格してるね!んで何?つーかほんとこのタバコまずいね、粉っぽい」
「ほな捨てろや。慣れへんことは気分転換にならんつーことを勉強できてよかったな!」
そのちっさい体に、一体どれほどのものを背負って生きれば、そういう答えが出るのかな。
俺はまだまだ甘ちゃんで、まだまだ甘ちゃんしててもいいってことだろ、庄司くん。
漆黒の堕天使かっこ笑いを、期間限定でも楽しんでいいってことだろ。
やっぱ先のこと考えてちゃ、全部上手くいかない。今だ。今しか閃きはできない。今しか俺にはないんだから、今だけ楽しめばいい。任せたよ、十年後の俺。…その時苦しんでも笑えよ、俺。
答えをくれた人生の先輩の話を親身に聞くために、タバコの火を消して彼と向き合う。すると庄司くんもタバコの火を消して、ふう、と一度ため息。そしてマジ顔。真面目な顔。
何、そんな深刻なの?
ごく、と唾を飲んで庄司くんの言葉を待つ。そして薄い唇が開いた。
「俺、後輩にケツ狙われてんねんけどどうしたらええの?」
「ぶふっ!!!知らねーよ!!!!!!超タイムリー!!」
なあ、俺も多分後輩にケツ狙われてるよ。
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