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七輪
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「酷い目にあったよ」
「…アナタ、なんてことをしてくれたんです」
「なぁに、少しからかってやろうと思ってね。始めだけは彼になりきってみたんだけれど、鼻の効く男だ。ボクは」
「一葉に傷跡を付けてもいいのはオレだけだ。」
「そんなに怖い顔しないで。君ももうすぐ消えてしまうだろう?」
「…、アナタ、ソレが目的だな?オレを消したいのか」
「呪いって言っただろ。ソレ以外になんにもないさ」
オレはボクの派生。ボクがオレの存在を認知してしまえば、消える。
ノバラは一葉に取り憑いたままボクの前に現れた。ご丁寧に一葉のフリまでして。そして襲いかかってきたボクを避けるように、一葉に身体を空け渡した。ボクはノバラを愛しているんじゃなかったのか。ノバラは一体何が目的だ。オレをどうしたい。ボクをどうしたいんだ。
「無害の一葉を巻き込むのはやめろ」
無駄であろう頼みごとをすると、案の定にっこりと微笑まれてしまった。一葉の顔でそんなふうに笑わないで欲しいものだ。一葉は妖艶には笑わないから美しいというのに。
「はは!どうして無害?小堀晃という人間と愛し合っているのに?!無害だというのか?この男が!」
突然見開かれた目、まくしたてるような口調、怒声、握られた拳は白くなっていた。
「僕は小堀晃に殺されたんだ。全てを奪われたんだ。未来も肉体も、僕の生き甲斐も!全てだ!小堀晃が何人いようが関係あるもんか!どうして僕が死んだのにお前が生きているんだ!殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、」
剥き出しの敵意に圧倒されて、オレは感づいた。なるほど、そうか、そういうことか。
「アナタの死体は、とても美しかった。」
何故オレはボクに生み出されたのだろう。オレに名前はない、オレもボクも小堀晃であることにはなんにも違いはないからだ。
ただ、オレは、ボクと違ってノバラを愛してはいない。
「アナタはとても美しかった。…一葉。」
愛していたのだ。オレは小堀晃のなり損ないだ。オレは小堀晃にすらなれなかった。
ただ、それでも愛していた。
強く握られた拳にそっと触れると、ノバラは思いきり振り払ってみせた。オレに抱かれておいて、今更オレに触れたくないというのか。ノバラ、アナタもとても哀れな人だ。ノバラ、きっと生前のアナタは優しい人だったのだろう。
ボクが狂ってしまうほどに、アナタは魅力的だったのだろう。
オレはノバラの手をもう一度掴んだ。ぎゅう、と握ると、今にも涙を零しそうな顔で一言だけ呟いてみせたのだ。
「…最後まで描きたかった。」
何故か、アナタの死体のすぐ横にあった大きなつつじの絵が、一瞬頭をよぎる。アナタは、あの絵に全てを込めたのでしょう、ノバラ、アナタは、ボクを、
ふ、と一葉から力がぬけ、がくん、と膝から崩れ落ちるのを支えると、薄い唇が小さく開いて言うのです。
「…あき、ら、」
と。オレを呼ぶのです。ああ、なんと愛おしい。
オレはアナタを愛してしまったのに、もうアナタを抱くことはできない。月明かり、赤の似合うアナタに傷痕を残すことが好きだったのは、オレには次の夜もアナタに逢えるという確信がなかったから。
す、と瞼を閉じる一葉をベッドに寝かせて、汗ばんだ髪を撫で、アナタの手の甲、頬、唇にキスをする。これはオレの餞です。
「オレが愛したばっかりに、アナタはこれからも涙を流す。」
オレを愛したばっかりに、アナタはボクにオレの影を探すのですね。ああ、ああ!オレは!小堀晃は!なんて、なんて、なんて、卑怯で、残酷で、慈悲のない男なんでしょう!
それでもアナタの嫌がる歯型を、アナタのカラダに残すのです。
オレがこの世から消えれば、ノバラもアナタを恨むことはない。そう言うことだろう?
アナタは知らない。オレがアナタをどれほど愛していたかを。
「どうか、お元気で」
お元気で。
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