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アップルと無表情
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「…杏樹」
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえて、杏樹はそろそろと目を覚ました。
そこに広がったのは恐ろしいほどの無表情。
何の感情もない顔とは相いれない優しい声音に杏樹はだるそうに瞬きをする。
「…なに伊予」
「うなされてた。大丈夫?」
「そんな無表情で心配されても心配されてるって感じしないけどな」
唇を尖らせベンチから起き上がる。
杏樹はおそるおそる自分の頬に手を添え、確かな熱いぬくもりを感じて肩を落とした。
やっぱり赤くなっている。
あんな昔の夢を見るのは久しぶりだった。
不快な夢はあまり見たくないのだがそれを狙ったようにいやな悪夢しか見ない。とにかく頬の熱を冷やさないと授業にいけない。
とにかくじっと背を丸めて待機してると、隣の伊予が立ち上がった。
ちらりとそちらに目をやると近くの水道でハンカチを濡らしてる情景が目に入る。
ぎゅっと濡れたハンカチを絞り戻ってきて、それを杏樹に差し出してきた。
「これで頬冷やして」
「…ん…」
こういうさり気ない気遣いができるのは幼馴染の伊予だからこそできることだ。
杏樹は心の中でお礼を言いながら黙々と冷やすことに集中した。
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