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アップルと仲直り
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「伊予!」
呼び止められ伊予は振り返った。
大きな日が暮れていく。沈みゆく太陽をバックに、一人の少年が肩を上下させて立っていた。
眩しさに瞬きをし、輪郭を取り戻していく。
杏樹が立っていた。1週間近くも見えなかった彼がそこにいる。思わず手を伸ばしかけたが思いとどまった。
また繰り返してしまいそうで。
何が起こるかはわからない。だったら何もしないほうがいい。
「杏樹」
「そっその、俺のこと助けてくれて…ありがとう」
杏樹は顔を真っ赤にしながらもじもじと言う。久しぶりに自分へと向けられたまなざしに心臓が高鳴った。押さえつけるように服の上から握りしめる。
「あっあのそれでな。伊予に言いたいことがあってな…」
戸惑いながら言われた。期待する自分を無理やりねじ伏せる。
きっと彼がこれから言うのは明瞭とした別れの言葉に違いない。怖い。あいまいなラインに立っていたのが彼の背中を見ることすらも許されなくなる。できることなら耳をふさいでうずくまりたい。
だが、逃げることは拒否していた。これ以上逃げては、何も変わらない。
「杏樹…」
「たっ助けてくれて、ありがとな」
照れくさそうに頬を掻きながら告げられた感謝。伊予は目を丸くして驚きを表現する。
「そのさ、おれたちなんか気まずかったけど、伊予はおれをかばってくれたじゃん?それが嬉しくてさ。つーか気まずくなったのおれが馬鹿だったからだし。思春期の男は大変だって理解できてなかっただからさー伊予はなんも悪くねえよ。ごめんな」
耳を垂れて頭を下げる。珍しく悪態もなにも付かずに謝ってきた杏樹に純粋な驚愕を味わっていた。彼は許してくれるというのか。許してくれないかと思っていた。ただ単に杏樹がアホなこともあるが、彼は心底伊予と仲直りしたいと思ってくれている。
そのことが、何よりもうれしかった。
「だからさ!もうとやかく言わずに、おれとまた仲良くしてくれる?」
「…うん」
表情を作ることが苦手な伊予は、ふんわりと笑う。心の底から安心と優しさをあふれさせる柔らかな笑み。めったに笑わないうえに感情を表に出さない伊予のはっきりとした微笑。
杏樹の胸が鋭く痛んだ。顔も赤くなる。
なっなんでおれドキドキしてるんだろう伊予の優しげな笑顔に胸が詰まる。息が苦しい。不愉快ではない熱が顔面をほてらせた。痛いけど優しい。複雑な熱に襲われる杏樹に、笑顔を消した伊予が首をかしげた。
「どうしたの杏樹」
「なっなんでもねえし!帰ろう!」
伊予の腕に抱きついて杏樹は顔を隠す。
顔が赤いのは、夕焼けのせいだけにしときたい。
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