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「おい、ゆうや!野球行こうぜ!」
「おう、ちょっと待って!」
カバンを持って教室を飛び出す仲間の後を追いかけるために俺もいそいでカバンを掴む。肩から掛ける暇なんてないよめんどくさい!思い切り振り回して駆け出そうとしたら、カバンからバン!と衝撃を感じた。
「あー!ゆうやくんひどい!」
「ちょっと、謝りなよ!」
振り向くとクラスでも地味で大人しい宗太ってやつがほっぺを押さえてた。俺のカバンが当たったのか。
『ごめん』って言おうと思ったけど、それより先に宗太の周りにいた女どもがぎゃあぎゃあ騒ぐから何だかうるさくてムカついた。
「なんだよ!そんなもんくらい避けられねえほうが悪いだろ!」
「なんですってー!」
「うるせーぶす!」
売り言葉に買い言葉、文句を言うとすぐに食って掛かってくるから女って嫌いなんだよな。ちらりとそうたを見るとしゅんとして俯いてるだけだからなんでこいつもなんとか言わねえんだよって腹が立った。
「知るかよバーカ!」
捨て台詞を残して教室をかけだす。ああ、すっきりしない。
次の日、俺は先生に居残りを命じられた。こないだ出した家庭科の宿題のエプロン、めんどくさくっててきとーに縫って怒られたんだ。俺が作ったのはエプロンだかただの布きれだかわかんないもんになっちゃって、今日は残ってちゃんと縫うようにって言われたんだ。
「くそ~!めんどくせえな~!」
縫い物なんて、女がやることなのに。ぶつぶつ言いながら職員室で先生からエプロン受け取って教室に戻ると、そうたがいた。
一生懸命何かを作ってる。手元に視線を固定しながら、縫い物をしながら、そうたはなんだかすごく嬉しそうな顔をしていた。
その顔見て、俺は何だかどきどきしたんだ。だって、そうた、すごく嬉しそうだったから。
思わず見とれてしまってしばらく声をかけることも忘れてじっとそうたが縫物をしてるのを扉の所から見ていた。
「…っくしゅ!」
「!」
急に鼻がかゆくなって、いきなり大きなくしゃみが出ちゃってそうたがそれに驚いてこっちを見た。あ~あ、せっかく黙って見てたのに。そう思ってブルブルと頭を振る。いやいや、違うだろ。そうたを見るために教室に来たんじゃないしな。
何だか変な気分になったのを無理やりなかったことにしてから教室に入ってそうたに普通に話しかけた。
「お前も居残り?」
「あ、ううん。僕は、家庭科部の課題やってて…。た、立花君は?」
「俺はこれ。」
自分のエプロンをほら、と見せるとそうたは納得したようだった。机に座って裁縫箱を出して、針に糸を通そうとしたんだけどなかなか通らない。苛々してたら、ふと目の前に影が降りて何かと思って顔を上げたらそうたが立ってた。
「よ、よかったら手伝ってあげるよ。糸、通らないんだよね。」
「あ、うん。」
貸して、と手を出されて大人しく針と糸を渡すとそうたは俺の裁縫箱から何か取り出してそれを針の穴に通して、その先に糸を通してまた俺に渡してきた。
「これ、糸通しって言うんだよ。これをこうして、針に通すの。やってみて。」
言われた通りに動かすと、簡単に糸が針の穴に通った。
「すげえ!」
「あとは、玉結びをして、こうして縫っていくんだよ」
不器用な俺に、そうたはわかりやすく丁寧に教えてくれた。苛々してたはずの縫い物も、何だかするすると上手くできてすごく楽しい。
「できた…!すげえ!」
「お疲れ様」
一時間後、出来上がったエプロンを見て感動の声を出す俺。さっきまでただの布きれだったのが、今はちゃんとエプロンに見える。
「そうたは魔法使いみたいだな」
「そ、そんな、誰でもできるよ。あ、もう下校時間だね。帰らなきゃ」
俺がそう言うとそうたは真っ赤になって頭を振り、そそくさと自分お机を片付けに行ってしまった。下校時間。そう言えばいつの間にかもう外は日が暮れてオレンジ色になっている。そういえば、そうたは何かを作るために残ってたんじゃなかったっけ。
「悪い、そうた。お前も自分の何か作んなきゃダメだったんだよな。」
「う、ううん。僕のは、一か月あるから。大丈夫なんだ。」
確か家庭科部の課題だったっけ。そうたって、どんなん作るんだろう。あんなに楽しそうに、何を作るんだろう。ほんとに、ふとした好奇心でそれを見たくなった。
「なあ、何作ってたの?見せてよ」
「え…、うん」
そう言っておずおずと差し出してきたのは、サッカーボールを蹴っているクマのマスコット。
「い、いろんなスポーツしてるクマをいくつか作らないといけなくて…」
「へえ~!あ、じゃあ俺にも作ってくれよ!野球のやつ!今度大事な大会があるんだよね、お守りにすっからさ!」
なんだろう。マスコットなんて女の持つもんだって、縫い物なんか女のすることだって思ってたのに、そうたが作ったり縫ったりするもんは特別に見えたんだ。
「で、でも」
「もしくれたらさ、それ持って俺、ぜってえホームラン打つから!そんで、そのホームランボール、お前にやるよ!交換!」
「…!ほ、んと?」
『ホームランボールをやる』と言ったら、そうたの目がすごくキラキラした。そうた、野球好きなのかな。もしかしてなんか事情があってできないのかな。そう思うと、何が何でもホームランを打ってそうたにあげたくなってきた。
「じゃあ、明日!明日、作ってくる!」
「やった!約束な!」
指切りげんまん、をした時のそうたがすごくすごく嬉しそうで、俺もつられて嬉しくなった。それから二人で職員室に行って先生にエプロンを渡して、おんなじ方向だったのがわかって一緒に帰ることにした。そうたは他の友達みたいにめちゃくちゃバカ話をする、ってわけじゃないけど、一緒にいてすごくほんわかしたんだ。
「じゃあ、僕こっちだから」
「うん!また明日!…あ、」
ちょうど分かれ道になってじゃあ、と手を振って声をかけた。そうたが立ち止まって振り返って、首を傾げてる。
「…昨日、鞄ぶつけてごめんな!じゃあな!」
そう言えば俺、ちゃんと謝ってなかった。大きい声でごめんって言って、そのままくるりと後ろを向いて思い切り駆けだす。そうたと仲良くなれたこと、ちゃんと謝れたこと、今日の放課後からの事で俺はなんかニヤニヤして一人で笑いながら走って帰った。
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