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<ありがとう。愛してる。そして、>(水)
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小学校教師の朝は早い。
軽くシャワーを浴びてヒゲを剃る。
身だしなみをキチンとしないと子供達に示しがつかない。
ネクタイを締めながらリビングに行くと、うっすらテレビの音が廊下に漏れていた。
「何だ、先に起きてきたのか?」
「あぁ、おはよぉ~。違う、さっき帰ってきたからずーっと起きてた」
ソファにもたれかかって気だるげにテレビを見ていた颯一は欠伸をするとキッチンに立った。
そういえば、昨日は店が終わったら家に帰らないで、そのまま市場に競りに行くとか言っていた気がする。
眠いなら飯なんて作らないで寝ていろ、と言ったものの「今日遅番だからこれ作ったら寝る~」と卵を焼き始めた。
「奏真、何飲む?お茶?コーヒー?オレンジジュース?牛乳?紅茶?オレンジジュース?青汁?オレンジジュース?」
「どんだけオレンジジュース飲ませたいんだ。勝手にするから気にするな」
「今日クラブあるんだっけ?」
「あぁ、遅くなる。あと、生徒の親とちょっとだけ飲んでくる」
「石川達でしょ?良いなぁ」
わかめとじゃがいもの味噌汁と焼いたベーコンに目玉焼き、浅漬のきゅうりや大根、常備菜のレンコンのきんぴらで飯を食ってから家を出る。
まだ冷たさの残る春の朝は、薄い雲が広がるけれど綺麗な青空だった。
学校へ向かう前に、新聞受けから新聞を引き抜いたのだけれど、うっかりチラシを落としてしまった。
舌打ちしてからそれを拾い上げていたのだけれど、ふと、マンション広告が目に入る。
それで思い出す。今のマンションの更新がそろそろ近づいていることを。
「…だいたい二十年か」
学生の頃から数えて約二十年。その間に三回は引越しをした。
全て賃貸で、颯一と二人、賃金が上がって貯金額が増えても家を買おうとはしなかった。
買おうという話をしなかったのは私も颯一も、頭の何処かでいつかお互いに伴侶を得て出て行くかもしれないと考えていたからだ。
このマンションも、お互いの関係も、仮住まいのようなものだ。
「四十年一緒なら仮住まいとは言わないか」
父親同士も幼馴染で、お互いが生まれる前からすぐ近くにいた。好きだと自覚して告白したのは、今のこう太達と同じ年のころか。
颯一のことは大事で、愛していて、自分の半身のようなものだと思う。
無くてはならない存在のはずなのに、颯一に好きな女性が出来た、と言われたら簡単に身を引ける気がした。
それが何故なのか、小学校に着くまで考えてもわからなかった。
心の内がモヤで白くなるような不快感に、知らず眉を寄せる。
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