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やじうま
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あのあと、俺はしばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。
というより、動くことができなかった。
鹿島は早々と出て行くわ、俺は戻ってこないわで、不思議に思ったらしい三宅に声をかけられて、やっと現実に戻ってこれた気がした。
なんかあった? とニヤニヤしながら聞く三宅にもなにも言えなくて、俺はその場から逃げるように職員室に戻った。
正直仕事どころではなかったけど、それでもまだ雑務をこなしているほうが気が紛れる気がしたから。
なんでキスしたんだろう。
鹿島の唇の柔らかさ、温もりを俺に教えて、一体なにになるっていうんだ。
「千聖ちゃーん。雄也また寝てんよ。起こさなくていーの?」
授業中。時間も半ば過ぎた頃、後ろの席から挙手して言ってきたのは、真田周平。
「……いい。ほっとけ」
真田は、鹿島と仲が良い。同じくムードメーカー的役割のやつで、見た目もチャラいやつ。というか、イカつい。
金髪に短髪で、ゴチャゴチャとしたゴールドのアクセサリーをたくさんつけてる。
見かけによらず心の優しい子だから、特に問題も無い。
頭があまり宜しいとは言えないけど。
「え、いーの? いつも起こしてたのにぃ?」
皆黒板の方を見ているから、真田の表情は分からない。
気づいたのは、俺。
明らかに、わざとらしくニヤリと笑っていた。
……鹿島が、なんか言ったのだろうか。
でも、なんて?
男の先生にキスしたなんてことを、たとえ友人にでも話すか?
そもそも、どういうつもりだったのか、全く分からないのに。
「期末も近いから、寝てるやつはほっとく。えーと、どこまで読んだっけ」
教科書に目を落とし、ページの続きを思い出す。
内心、ドクンドクンと、心臓が波打ってるのが、鼓膜に響いた気がした。
真田はなにを、知ってるんだろう。
なんで、鹿島はキスしたんだろう。
聞けない。だから教えてよ。
ねえ、鹿島。
鹿島。
「千聖ちゃーん。聞きたいことあんだけど」
放課後。HRも終わり、一気にガヤガヤしだした教室。
大半の者がさっさと教室を出て行く中、教卓に近寄ってきたのは、真田だった。
ニヤニヤした表情から、なんとなく察するが、それでも分からない。
「なに? 日本史? ここで聞こうか」
「日本史じゃない。……ここでもいーの?」
また、ニヤリと。
これで確信した。
真田が話したいのはきっと、鹿島の話。
多分、音楽室でのナニカを知っているに違いない。
「……分かった、じゃあ後で社会科準備室に来て」
「はぁ?い」
楽しげに返事をする真田。
俺は、一度職員室に戻ると、予習のセットを持ち、真田が来るだろう場所に移動した。
「千聖ちゃーん」
と、準備室のある廊下を曲がったところで、真田はすでにスタンバイ。
まだ姿は遠くにあるのに、真田は俺の姿を見つけるなり、満面の笑みで手をブンブンと降ってくる。
「……はや」
苦笑いして呟いた俺の声も、もちろん聞こえるわけもないだろう。
「カモフラージュに教科書持ってきた」
準備室の前。
俺はポケットに手を突っ込み、鍵を取り出す。
扉が開くのを待ちながら、真田はニカッと笑い、日本史のソレを掲げた。
カモフラージュって……。
あからさまに野次馬します、てもろバレなセリフ。
やっぱり俺は苦笑いで返し、部屋に招き入れた。
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