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No.75/モブ男
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「紅葉、この本持ってるんだ。」
「うん、好きな作家なんだ。渉も読むなら貸そうか?」
トリカイが後ろの本棚から取り出した本は、確かキイチも好きだって言ってた小説だった。
「いや、前に挑戦したけど俺には理解出来なかったんだ。ごめんな、別にこの小説が嫌って訳じゃないんだけど。」
「ううん、好き嫌いは誰にでもあるしね。渉はどんな本が好きなの。」
なんか本当に仲良いな。紅葉の部屋で一緒に宿題しながら向かい側で話してる2人を見る。オレはそろそろ塾に行く時間になるから終わった宿題を片付けて立ち上がる。
「塾に行ってくるな。」
「駅まで送るよ。」
紅葉まで立ち上がったから慌てて止めた。
「まだ明るいし送んなくていーよ。せっかくトリカイ居るんだから一緒に勉強してろって。」
「本当に大丈夫?変な人について行ったら駄目だよ。」
「分かってるって。もう高3だぞー。」
心配性な紅葉の肩を笑顔で叩く。
「プリン奢ってやるって言われても、だよ?」
「…ゔ、だ、大丈夫。ちゃんと断る。」
正直、ちょっとグラつく。
「約束してよ。プリンなら幾らでも僕が買ってあげるからね。後で生クリームの乗ったのを用意しとくよ。」
「桜井さん…。そんなにプリン好きなんですか。」
「うん。プリンって美味いよな。」
なんでかまだ心配そうな顔して見送ってくる2人に玄関先で手を振って、オレは駅に向かった。
「よお、桜井。」
塾はY校とは逆方向に在る。一つ前の駅から乗り込んでいた東野が、電車のドアの近くに立ち笑顔でオレに手招きする。
「あれ、今日は同じ電車だったんだな。」
「うん。この前、この時間に乗るって言ってたろ。合わせた。」
「そっか。でも東野は学校から直接行った方が近いんじゃないか?」
「うーん、そうすると時間が早過ぎんだよ。今迄は図書館で勉強してから行ってたけど、一回家に帰った方が荷物も少なくて済むしさ。」
そんな事を話しながら電車に揺られ、昼休みの話を思い出した。
「そういやさ、京平とキイチって東野と同中だったんだろ。今、仲良くしてんだ。」
「きいちって能戸の事?」
「うん。」
「で、きょうへいって加賀?」
「うん。」
共通の仲良い奴がいる事が嬉しい。笑顔で頷く。
「能戸は良いとして加賀は止めとけ。」
「え?」
なんか急に怒った口調になる。びっくりしてると吐き捨てるように言われた。
「あいつは最低な男だぜ。俺の元カノを横取りした挙句に捨てたんだから。」
ガッタンと大きく揺れる電車。呆然として立ってたオレはその横揺れに耐えられずに体が傾いた。
「おっと、」
横から伸びた手が腕を掴んで引き寄せる。ハッとして瞬きした。
「あ、ありがと。ごめんな。」
「いいけどお前ほっそいなー。」
東野が掴んだままの腕を見てる。オレはボンヤリとさっきの元カノを取ったって言葉をまた頭の中で繰り返した。
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