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トリカイの冬休み(1)
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その人と会ったのは、今から1年前の冬休みだった。近所の図書館へ行ったのは、俺が読書家だからとか、普段から良く利用しているからとか、そんな事じゃない。正直、本とは縁遠い。国語の教科書だって、俺にとっては十分過ぎる程の苦行だ。
「あー、もう良くわかんね。」
ずらりと並んだ本。こん中から俺の探している本を見つけるなんて無理。ふらふらとさまよって、またさまよってギブアップした。
「ぷっ、何の本を探してるの、」
後ろに立った人の気配と、可笑しそうな口調。ふらふらーってしてたの見られてたんだきっと。恥ずかしい。
「課題の読書感想文の本を…。」
後ろを振り返ってびっくりした。すんごい綺麗な人が首を傾げた。
「ふうん。どんな本か指定はある?」
俺より少し低い背、サラサラの茶髪。吸い込まれそうになる瞳、長い睫毛。
「探すの手伝うよ。」
「あ、ああっ、はい。この5冊の中から1冊選ぶんです。」
ハッとして慌てて、手に持ってたプリントを見せる。
「ああ、成る程ね。この中からか…どの本を読みたいのかな、」
「いや、どれも知らない本で…、出来れば読みやすいのとかページ数が少ないのとか…。」
「ははっ、読書が苦手なのか。」
恥ずかしい。本当、恥ずかしい。見透かされてしまってる。せめてさ1冊でも知ってる本があったらよかったのに、そしたら少しはこの人に良い印象とか持って貰えたかもしんないのに。
「俺のお勧めは…この本。」
そう言って彼の頭が俺の近くに寄る、指先がプリントに触れる。あ、いい匂い。
ドキドキしてる胸の中、俺は選ばれたタイトルを目で辿るけど、どうしたもんか全然頭に入らない。
「しかもこの本、今俺の手元にあるよ。しょうがないから譲ってやる。」
差し出される本、ふわふわ夢見心地で無意識に受け取る。柔らかな笑み、艶やかな唇の端が微かに上がってる。本当に綺麗だ。
「その本、次に借りたいんだ。だから携帯の番号を交換していい?読んだら連絡くれないかな。」
「は、はい…。」
やった!嘘みたいに簡単に連絡先を交換しようって言われた。ついてる!…って、ついてるって何だよ。男同士だっつの!
「あの、俺はY高校1年の鳥海渉って言います。」
同じくらいの歳かな?どこの高校だろ。スマホを取り出してお互い連絡先を交換する。
「とりかい、わたる君ね。俺はね…」
彼の名前は能戸儀一。なんと、俺と同じY高校の1個上の先輩だった。
それが、彼との初めての出会い。そして、報われない恋に落ちた瞬間だった。
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