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トリカイの冬休み(7)
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結局、俺の願いは叶わなかった。能戸さんはもう遊びで誰かと寝る事はしないとハッキリ言ってきて、俺の意気込みや加賀さんの真似事も無駄に終わった。
不完全燃焼、くすぶる気持ち。気持ちの整理は付かないまま、しばらく能戸さんの周りをうろついた。それでも時は平等に流れる。
「渉、正月に初詣へ行かない?」
紅葉がホットコーヒーを飲みながら聞いてくる。早い事にもう年末。能戸さんとの出会いから1年が経った。
ふやふやーと徐々に形を失くしてく恋心の代わりに得たものもある。桜井さんとの出会いと、その弟である双子の友達。
「うん、いいけど。他には誰が行くんだ。」
一緒に冬休みの宿題をやってる、っていうか紅葉は既に終わらせてドイツ語の勉強をしてるんだけど、その紅葉の部屋で楓もドイツ語で書かれた雑誌を読んでる。最近ハマってるらしい。この前はフランス語だった。何なんだこの二人。もう頭が良過ぎる。意味わからん。
「真琴とクソ加賀。それと多分、能戸さん。」
楓が答える。二人共、桜井さんがいない時は、兄ちゃんとは言わずに真琴と呼ぶ。最初は不思議だったけど血が繋がってない事や、桜井さんの事を肉親的な感情を超えて好きな事を知ってる今は納得している。
やっぱり好きな人を兄ちゃんって呼ぶのはキツイ。それだけで兄弟の枠に入れられて、恋の可能性が狭まる気がする。
「能戸さんか…どこの大学へ行くんだろ。結局知らないんだけど、紅葉はなんか知ってる?」
「僕も聞いてないな。聞いてほしくなさそうな気がしてさ。真琴も知らないって言ってたよ。」
「…そっか、」
というか、俺は紅葉とは違う理由で聞けない。もし聞いて答えて貰えなかったら、警戒してる素振りをされたら…。形を失くした恋心でも、まだ彼の姿を見ることが出来る場所に未練がましく居る事を疎ましがられていたら立ち直れない気がする。これでもあんまり側に行かない様に、話しかけない様に気を付けてる。
「渉、プリンあるよ食べる?」
「…桜井さんが好きだろ。俺はいいよ楓。」
きっと桜井さんの為に用意してあるんだろう。楓はいつも桜井さんが1番で、加賀さんと付き合ってるのに全然諦めてない。
強く揺るがない思い、そこには誰の入る余地もない。何でそんなに意地になってる様にも見える程の気持ちを持ち続けていられるのか、…俺は無理だよ。もう消えてしまいそうになってる恋心。きっとそのうち本当に無くなってしまうんだ。
もうあの1度きりの行為も記憶が薄れ始めてる。痛みも、もう残ってない。これで良いんだ、 きっと。
「渉はあんまり食べないね、だから細いんじゃないの。真琴と同じ様な細さ、」
「桜井さんの方が細い気がするけど。」
4月から、正確に言えば能戸さんにハッキリ振られてからどんどん食欲は落ちて体重は減ったまま戻らない。
紅葉が服の上から腹の辺りを触る。次いで、腕までぎゅっと握ってくる。
「うん、真琴くらい。一時期、真琴はかなり痩せてたけど最近は少し戻ってきてるから…でも二人共細いよ。それに何か渉は心配になる。」
「そうかな、」
紅葉の表情が曇ってる。鋭いなあ…。本当は、もう限界なんだ。
初詣…能戸さんが来るなら断ろう。もう顔を会わせないようにしよう。今年でこの気持ちの全てにケリをつける。来年は新しい恋を探すんだ。誰か俺を好きだと言ってくれたら…そしたらきっと。
傾く、落ちる。
「渉、どうして泣いてるの。」
涙が、俺の頬に触れようとした紅葉の傾いた手の甲を滑って落ちた。
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