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No.90/モテ男
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俺は、第一志望のK大学に奇跡的に合格した。親も半信半疑だったし、俺自身が1番びっくりしている。しかも能戸と東野もK大らしい。
「キイチって、実はK大狙いだったんだなぁ。全然知らなかった。」
「そ、駄目だったら恥ずかしいから内緒にしてたんだ。」
「お前は元々俺より頭良いんだから、俺が受かるならお前も受かるだろ、」
卒業式の会場である体育館へ向かいながら話す。もう卒業とか…1年ってのは遅いようで早いな。いや、ほとんど真琴の事と勉強に追われて終わった1年間だった。
「4月からえりりんと同じ大学か…完璧だな俺の人生。」
「受かってよかったな、龍壱。」
「俺はほら、やれば出来る男だしな。まあちょこっとは真琴のおかげもあるけど、」
「いや、ほとんど真琴のおかげだろ。」
思わず突っ込み入れたら、真琴はなんもしてねえよって首を傾げた。いやいや、原の補習に付き合ったり、数学を教えてやったり、本当によく面倒見てた。
ジロッと原を見たら、奴なりに思うところがあったのか急に大人しくなった。
「…えらいスンマセン、ほとんど真琴のおかげです。もう卒業だし、ちゃんと素直に礼を言っとくわ。有難うな真琴、俺は3年間同じクラスで本当よかった。お前のバカを見てるだけで本当に楽しかった。」
馬鹿って…、でも言った本人も言われた真琴も全然気にしてない。
「…龍壱ぃオレもぉ。オレも3年間楽しかった。」
卒業式も始まってねーのに、早くもうるうるの涙目。釘を刺しとくか。
「真琴、今日は答辞を読むんだろ。今から泣くと後が保たねえぞ。」
「あ、そうだった。代表で読むんだった。入学式の時も緊張したんだ。そんで伊達メガネ作戦ってやつを楓と紅葉が考えてくれて、メガネ掛けてやったんだ。」
「ああ…入学式の時に挨拶してたの、まことっちだったんだ。あれからあんな生徒見ないと思ってたんだ、モッサい眼鏡だっよねー。あははっ、」
思い出し笑いが止まらない能戸…どんな眼鏡だ。俺は完璧寝てたな、覚えてねえ。
「うん、首席入学だったから。でもオレってバカで有名だし。だから今日もびっくりされそうでイヤなんだよな。」
俺も真琴を馬鹿だと思ってた時期があった…、つーか、さっきの原の発言といい馬鹿で有名って何だ。
モッサい眼鏡とかせずに普通に挨拶してたらモテたんじゃ……あの双子わざとだな。
「んー、でも今はそうでもなくね?やっぱ、お前が惚れっぽいのが原因だったんじゃねえの。3年になってから1回しか告ってねーし、教室で加賀とか俺に勉強教えてたから他の奴も教えてもらいに来てただろ。」
「まことっちは自分で気付いてないだけで、きっとみんな馬鹿にしてなんかないよ。」
「そうか?」
相変わらず自己評価が低い。
「代表で壇上に立つってだけでも俺にとっては凄い事だ。みんなそう思うんじゃねえの。」
俺にはどうやっても出来ねえし、本当に凄いと思うぜ。
「だといいけど…、」
本人の心配をよそに、真琴はちゃんと答辞を立派に読み上げ、晴れやかな笑顔で卒業式に華を添えた。今日の天気と同じ、澄んだ青空の様に。
真琴へ注ぐ拍手の音。俺も惜しみ無い拍手を送る。
やっぱり入学式でこんな姿を見せてたら、きっと彼女も早々に出来たんだろう。そしたら俺とは付き合う事もなかった。双子のモッサい眼鏡作戦に感謝だな。
「緊張したぁ。」
挨拶の終わった真琴が俺の隣の椅子に座ると、顔を近づけて小さい声で言った。
「立派だったぜ、感動した。」
俺も小声で返す。
「本当に?」
「うん。さすが真琴だって思った。」
「へへ…、嬉しい。」
ああ、もう卒業なんだとやっと実感した。これで、約1年間続けた真琴観察記は終わりだ。いつか、高3の1年間を懐かしく振り返る事もあるのかもしれない。その時には、青空の様に晴れ渡った笑顔が隣にあればいいと思う。いや、そうなれる様に努力する。
高校を卒業から2年後、真琴はまこ先生になり、更に2年後、同じ保育園に杉山夕夜がゆう先生として着任する事になるのは、まだこの時の俺は勿論ながら知らなかった。
そして、かく言う俺も無事K大学をストレートで卒業し就職。仕事に慣れた今、真琴とやっと同棲する事に成功した。それが、俺の新たな真琴観察記の始まり。
「なあ、京平。今日は夕飯何が食いたい?」
お前。って言いたいところだが、そんなベタはやらねえ。
「和食。」
「うん。和食なー。ホント好きだな。」
「冷食生活とコンビニ生活の反動だ。」
「はは、恵子さん料理苦手だもんなぁ。でも今日、オニオンスープの作り方聞かれたから教えたけど…出来たかな。」
「うん、…明日日曜だし時間取って様子見に行ってくるわ。」
嫌な予感しかしねえ。
「あ、オレも行く。なんかおかず作って持って行こう。」
「そうしてやってくれ。親父が泣いて喜ぶから。」
「うん。」
ご当地のゆるキャラエプロンを着けた真琴が笑う。うん、相変わらず晴れ渡る青空だ。
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