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君の話を聴こうか、[新しい家族]
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僕は桜井楓という。勉強も運動も昔から得意。今は任期を終えたけど、生徒会の副会長を高2の1年間、紅葉と一緒にやっていた。こんなふうに言うと、自慢話の様で嫌味なのかもな。でも、本当の事だから仕方ない。
こんな一見完璧な僕でも、失恋は経験済み。どんなに足掻いても、欲しがっても、駄目な時はある。
そう、今の僕は身の程を知ってる。だけど、変わらず愚かな高校3年生。そして、今よりもっと愚かだった過去の話を聴いてほしいと思うんだ。
新しい兄が出来たのは、父親が再婚する事になった今から四年前の事。当時、中学2年生で双子の兄の方であり、双子の弟の方の紅葉とは2人だけの兄弟だった。その頃は思春期もあって、自覚の無い子供っぽさと世間知らずを併せ持ち、更に、狭い世界で鼻を高くしていた愚かな奴だった。
初顔合わせは、10月の良く晴れた日だった。場所は個室のある、ちょっとした和食の店。
真琴です。あの、一つ年上だし、これからは兄ちゃんって呼んでほしいんだ。よろしくなぁ。
そう言って笑顔になる。晴れ晴れとした、何の悩みもなさそうな馬鹿な笑顔だった。正直うんざりした。どうせ兄が出来るなら、自分よりも優れた人物が良かった。
隣の紅葉を見た。僕と同じタイミングでこっちを見て来た、目を見れば分かる、同じ事を思ってる。僕達はお互いの事が良く分かる…というか、考え方が似てる。僕が頷くタイミングで、紅葉も頷いた。
了解。
考えは一致した、この時に真琴をおもちゃにして遊ぶ事は決定した。
その二週間後、正式に籍を入れた新しい母親が真琴を連れて家にやって来た。
真琴は母親に似ている、良くも悪くもない平凡な顔立ち。新しい母は僕と紅葉の見分けに苦労しながら、良く良く見て、楓君…と躊躇いがちに呼ぶ。偶に間違えても、僕は紅葉として返事をした。紅葉もそうする。僕達は、そうする事に慣れている。むしろ、本当の母親は見分けなどしなかった。彼女が楓と呼べば楓であり、紅葉と呼べば紅葉だった。父親もそうだ。
本当の母親と父が離婚したのは、再婚する1年前だったが、実際に結婚生活が破綻していたのは随分と昔からだ。2人は弁護士で、家庭を愛するよりも仕事を愛した。別にそれはいい、僕には紅葉が居て、紅葉には僕が居たからだ。
新しい家族。それに何の意味があるのか、僕と紅葉には同居人が2人増えただけの事だ。ただ、父にとっては重要な事だったろう。
今まで雇っていた家政婦は居なくなり、新しい母親が食事を作った。行ってらっしゃい、とみんなを送り出し、自分も仕事に出かける。以前の生活からは一転し、父親がマメに家へ帰って来る様になった。こんなに、家庭を愛する男になるとは思わなかった。
今までは、一体何だったんだ。馬鹿らしい。そんな気持ちがくすぶる。僕は勉強も運動も得意で、良くモテた。勿論、紅葉もそうだ。
だから、何でも知っていて、何でも思い通りに出来ると、狭い世界の中で思っていたのに…このモヤモヤとした行き場のない気持ち。それを持て余し、発散する対象が必要だった。そうでなければ、僕は完璧でいられない。父親の望む様な、何でも出来る優等生なんて、本当は存在しないんだ。どれだけ取り繕って演じてると思ってんの?
なあ、紅葉もそうだろ?
目を見れば分かる。僕達は同じだ。
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