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君の話を聴こうか、[休戦の後]
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真琴の身体を紅葉と2人で共有する様になって、加賀とは最近そういう行為をしてない筈なのに、真琴の気持ちが向こうへ傾いているのに気が付いた。
それを止めたくて足掻いて、無理に引き留めて、真琴の気持ちを歪めて悲しませる。それを許さない良心が責める、なのに、それすら嫉妬心と執着心に渦巻かれ沈んで行く。紅葉を見る、紅葉も同じだ…ずっと悩んでいる。
そんな僕達の気持ちを見透かす奴がいた。そいつの名は能戸儀一、この男は加賀を通じて出来た真琴の新しい友達で同級生。なんだか知らないけど、最初は真琴を狙っていたくせに、さっさと方向転換して、すっかりちゃっかり友達の座に収まってる変な人だ。
実は、能戸さんの名前もちらほらと耳にした事はあった。加賀と並ぶY高校のモテ男、だけど男にも手を出すとか出されるとか、面白半分の噂。それはまあ、容姿を見れば仕方ないと思う。加賀とは違い、男にもモテそうな美しい人だ。だけど、見た目の繊細さとはかけ離れた中身。実際に、男も女もイケるし、どちらに対しても受け身にはならない人だって、今は知っている。
一度休戦して、真琴に付き合う相手を選ばせよう。このままじゃ、真琴が耐えられないよ。
そう言いだしたのは紅葉。きっと、能戸さんの入れ知恵だと思う。だけど、僕も迷いがあったから頷いた。
いいよ、そうしよう。
僕と紅葉は割と好みも似てるし、意見が同じ事が多い。なのに、能戸さんに関しては認識が大きく異なる。
紅葉は読書、それも同じ作家が好きだという共通の趣味があるせいか、能戸さんの評価が高い。一方僕は、正直胡散臭いと思っている。たまに見せる、あの内心を隠す様な笑顔とか何だよって思う、確かに凄く綺麗だし、ころりと騙される人も多いだろう。でも、僕は気に入らない。
5月になった。休戦の結果、真琴が選んだのは女の子でもなく僕達でもない、やっぱりと言うべきか…加賀だった。
予感はあった、だけど実際にこの選択を目の当たりにすると、ショックは大きい。諦めきれなくて、僕は真琴の気持ちが早く変わらないかと願った。
僕の願いは叶わず、真琴は加賀との付き合いを止める事なく受験勉強に明け暮れ、土壇場で進路を大きく変更して保育士の専門学校に進学する事にした。
それは、僕達家族にとっては喜ばしい事だった。初めに目指していた国立のK大学は、僕と紅葉も狙ってる大学だけど、真琴には合わない気がする。両親の意見も同じ、勉強に没頭するあまりに体重を減らしていく真琴を心配している。だから、本当にやりたい事を見つけてくれて良かったと胸を撫で下ろした。
そして、とうとう年末。紅葉は僕よりも早く気持ちの整理を始めた、こんな時でもやっぱり僕は出遅れる。
きっかけは多分、友達の涙だと思う。その友達というのが、以前能戸さんと肉体関係があった鳥海渉という、Y高校に通う僕らと同い年の男だ。渉がどんな思いで振られた後も能戸さんに向き合っていたのか、本人は語らないし平気そうに笑ってた…けど。涙は突然で、不意打ちの様に紅葉の手の甲を滑った。
渉、どうして泣いてるの。
紅葉が心配して渉に触れる。
あ、もう帰んないと!
そう言って弾かれた様に素早く立ち上がり、渉は全力でうちを飛び出して逃げた。
待って、渉!
2人で後を追ったけど、追いつけなかった。僕達は、渉が失恋の傷を抱えている事を知っていたのに、不用意にも能戸さんも来る予定の初詣に誘ってしまったんだ。
楓、僕は今泣いてる?
紅葉が突然聞いてきた。顔を見るけど、涙なんて出ていない。僕は首を振った。
そっか。一瞬、渉の涙を自分の涙だと思った。今も、もしかしたら僕も泣いてるんじゃないかって。
紅葉はそう言って、自分の手の甲を見詰めた。もう渉の涙の跡はない。
僕達は真琴に振られても泣かなかった。まだ、終わりじゃないからって、まだまだ、加賀と戦ってやるって思ってた。でも、きっと本音では分かってる。そんな事にはならないだろうって。もし加賀と別れても、真琴は僕達を選ばない。
僕達は真琴にとって、ずっと兄弟であり家族だ。それ以上でも以下でもない。
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