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君の話を聴こうか、[僕の話]
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能戸さんは、僕の食べ物の好みを知っている。それから、一切謝らなかったくせに何を思ってか、あの2度の強引な行為が嘘のように最近はキスしかして来ない。
「楓、これ飲む?」
「うん。」
並んで借りて来たDVDを見ながら、渡された炭酸水を飲む。あ、レモンの味がさっぱりしてて美味いな。甘味料が入って無いから食後には丁度良い。
今日みたいに、能戸さんの部屋には夏休みになってから何度か来てる。僕と会ってない時はバイトをしているか大学か図書館。いつの間にか行動を把握してしまってる。
何のバイトか聞いたら、加賀さんのバイト先である従兄弟の友達の家庭教師だとか。加賀さんに頼まれて、中学3年生の受験生相手に週3日、夜の7時半から2時間勉強を教えているらしい。
「楓、唇が赤くなってる、」
言われて舌で唇を舐める。薄い皮がひりつく。昼食で食べた激辛担々麺が辛過ぎたかも。いや、美味しかったけどね。
感じる隣りからの視線、目を向けると当然の様に唇が重なった。
「っはぁ、」
僕の口の中の味を確かめる様に探ってくるけど、あっちの口の中も同じ香辛料の味がする。だって、そこに行こうって誘って来たのは彼だ。
「うん、担々麺の匂い。」
「能戸さんも。でもさキスし過ぎ。」
今日は軽いのを合わせて3回目。離れながら伏せられたまつ毛がゆっくり上がり俺を捉える瞳、濡れた唇。
「好きだから、」
あー狡いな。自分の美しさを知り、それを囮として使う事に躊躇がない。本当にろくでもない男。
「なあ、今はどこまで俺を受け入れてる。」
不意にDVDから流れる感動的なBGM。物語は僕達の観てない間にも着々と進んでいる。
ああ、逃げないって決めただろ。だからちゃんと決めた事を言わないと、僕も前へ進む為に。
「少し、僕の話を聴いて欲しいんだ。」
能戸さんの方へ向き直ると、じっと彼を見た。僕の真剣な雰囲気に、いつもは余裕そうな表情が引き締まり、一気に空気が変わった。
「うん。」
「進学先をK大に決めた。」
「…うん。」
ずっと迷ってるのを知っていた彼は、驚いた顔をしたが頷くだけに留めた。まだ僕の話が続く事を察して、黙ってこっちを見てる。
「基本的に面食いじゃないから、惹かれる時は性格とかふとした事が多いんだ。あと、人を好きになるのに性別は関係無いって考えは能戸さんと同じ。」
「うん。」
「僕はきっと昔も今も愚かなまま。前に進むのに時間がかかるし、紅葉みたいに素直でも無い。面倒な奴だって自覚も有る。付き合うとしたら浮気は許さない。」
「うん。」
「こんな僕でも…いいですか?」
「うん、勿論。」
その笑顔は、柔らかくて優しい。この前見た、紅葉が渉に向けるのと同種類のもの。
ああ、僕はこれが欲しかった。僕だけの為に、僕だけを見てくれる人。
少し低い位置から抱き締めてくる腕の暖かさが、クーラーの効いた室内で冷えていた体を包む。その肩に頭を預ける、細くても筋肉がしっかりと付いた体。僕はこの中身と外見のギャップが好きなんだと思う。それが能戸儀一の魅力。
「甘えてんのか、可愛いな楓。」
「うん。」
目蓋を閉じる。やっと、心が満たされた気がした。
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