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いい友達
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最近、どうもおかしい。
何がおかしいって…俺がおかしい。
「おい菊池。オヤジさんもう来んだろ?帰るぞ。」
「…おー。」
HRも終わり、係りの人が掃除をし始めるのを横目に、俺は春夏冬に気の抜けた返事を返した。
「…何?」
「…別に。」
春夏冬は怪訝そうな表情を浮かべたが、俺は「車椅子押して。」と春夏冬に頼み、教室を出た。
「そういや、さっき何話してたんだよ。」
「さっき?」
「…5限目終わった時、くじらと話してたろ。」
「あー……つかなんで見てんだよ。」
「あいつが人に話しかけてるの見んの初めてだったから。つっても、会ってまだ2日しか経ってねぇけど。」
「…。」
5限目の終わり…。
確かにくじらは、俺の所へ来た。
「…いや、授業の話してただけ。」
…ていうのは、別にどうでもよかったわけで。
そんな事よりも…何よりも……。
「英。」
……って、呼ばれたんだよなぁ…さっき。
…いや、だからどうって訳じゃねぇけど。
ただ…下の名前を突然呼ばれて、少し驚いただけ…ていうか…。
「…。」
…くじら、普通な顔してたな。
今まで、ふざけとか、からかい半分で下の名前を呼んでくる奴は山ほどいた。
春夏冬も、その一人だった。
でも、くじらはそんな素振り全然なくて。
親父やお袋が呼ぶみたいに普通だった……だけど…。
…やっぱり、あいつに呼ばれるのは…何か……は…恥ずかしい…つーか。
「…お前、もしかしてまだ怒ってんの?」
「…え?何?」
「昼休みに茶化したこと。」
「…茶化したって自覚あるんだ……別に、お前が俺の名前バカにすんのなんて初めてじゃねぇし。むしろ何回目ですかぁー?って感じだし。気にもしてねぇよ。」
「…。」
…なんだ?
春夏冬がいつにもまして……不細工な顔をしていた。
……ごめん、不細工は言い過ぎた。
変な顔をしてた。
「なんだよ。」
「…くじらが呼ぶのは、許すんだな。」
「?………えっ。」
こいつ……もしかして、さっきの聞いてたのか…?
「だ、だからくじらは、からかって呼んでんじゃねぇの!お前と違って!ゆ、許すとか許さないとかねぇだろっ。つか何?お前さっきから何!変!」
「…。」
……いやいや、俺も十分変だろがっ。
何焦っちゃってんの〜俺〜…。
「…赤。」
「あ?何か言「何でもねぇよ。もう喋んな。次喋ったら車椅子から落とす。」
「え何!?お前が言うと洒落になんねぇからやめて!!」
外へ出ると、いつも通り、学校の近くにある空き地に親父は車を止めて待っていた。
「いやー今日も一日この馬鹿息子が世話になったなぁ春夏冬君!」
「いえいえ、何てったって俺たち、オトモダチなんで!」
もういいわそのネタ。
親父もいい加減気づけよこいつが真っ黒ペテン師だってこと。
「あ、そうだ。今日お前リハビリの日だろ。ちゃんと病院のカード持ってきたのか?」
「持ってる持ってる。昨日親父が俺にわたしたんじゃん。」
「そうだっけか?」
…ボケだなぁもう。
…にしてもリハビリかぁ…面倒くさいなぁ。
「菊池君、まだリハビリ通ってたんですか
?」
…菊池君とか言うなびっくりしたわ鳥肌立つわ!!
「ん?あぁ…そうだな。まだ行ってるよ。」
「…そうですか。」
「…。」
春夏冬の質問に、親父は眉を下げて笑った。
…親父のこういう時の顔は…心底見ていられなくなる。
…俺のことで、こんな顔をさせたくない。
…だから、春夏冬も余計な事聞くなよ。
「…親父行こう。春夏冬も、送ってくれてありがとな。」
「…おぉ。じゃあな。」
「あ!春夏冬君!」
親父は俺を車に乗せようと、助手席のドアノブに手をかけたが、帰ろうとした春夏冬をいきなり呼び止めた。
「はい?」
「…その…なんだ…。」
「…親父?」
親父は頭をぽりぽり掻きながら…穏やかな表情で春夏冬を見た。
「これからもこいつの……英の、いい友達でいてやって下さい。」
親父の言葉を、あいつは笑うと思ってた。
親父の言葉を、あいつは蔑ろにするかと思ってた。
……けど…帰ろうとしていた春夏冬の顔は…声は…
「当然ですよ。」
本気…だった。
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