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痛い
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「……まぁ、要するに…暴走車が急に横から突っ込んできて、それに気づかずにまんまと轢かれて、この有様ってわけだ。」
昼休みが終わる10分前。
俺もくじらも弁当にはほとんど手を付けず、くじらは俺の話を黙って聞いていた。
屋上には、もう俺たち以外誰もいなくて、きっと次の授業の準備をしに教室へ戻ったのだろう。
「…すげぇ話し込んじゃったな。別に面白くねぇ話をぺらぺらとさ。」
「…。」
「てか、俺ら全然弁当食ってねー!絶対午後保たないわこれ。」
「…。」
…えっと……何で黙ったままなんだろ、こいつ。
…いや、そんなの俺の話聞いて反応に困ってるからに決まってるよなぁ。
ほんと、ずっと何も言わずに聞いてたな。
……今、どんな顔してんだろ…。
「…ごめんなほんと。今の話、別に忘れてくれても………。」
そう言い、ずっと黙っていたくじらの顔を見た。
くじらの…顔を……。
「……くじ…ら?」
「…。」
苦い顔って、こういうことを言うんだなってくらい…くじらは苦い顔をしていた。
え…嘘…そんな顔…されると思ってなかった。
ズキ……ッ
あれ……この顔………あの時と同じだ。
俺が車に轢かれた時に見せた…親父の顔と同じ。
…自分が何か、悪いことでもしたかのような…そんな顔。
「…。」
暫くすると、くじらは俺の…左手に手を重ねてきた。
正直、びっくりした。
俺のより一回りでかいくじらの右手が…俺の手に触れている…のに…。
「………何も。」
「えっ…。」
「…何も、感じないのか?」
「…。」
…あ、やべぇ…何か…泣きそう。
…おかしいよ…何でお前がそんな顔する訳?
何で…俺の手なんかに触れたりする訳?
何で…俺、泣きそうになってんの?
おかしい…おかしいおかしいおかしい恥ずかしい…。
「…。」
「え、ちょ…。」
くじらは俺の手を握りながら、そのままその手を自分のおでこまで持って行った。
俺の手の甲が、くじらの額と、ほんの少し瞼に触れる。
でもやっぱり、何も感じない。
…虚しいだけの…手。
「…な、何がしたいの?つか、何してんの…?」
「…。」
くじらは、ただただ目を瞑って、俺の手を握り締めていた。
自然と、俺の眉間にシワが寄る。
ここはさ、普通笑って何やってんだよ!とか言うところなのに…笑えない。
言葉が喉に引っかかって、詰まって、苦しい。
…苦しいよくじら…どうしたんだよ何なんだよ…。
「……ありがとう…。」
「……え?」
ますます訳がわからない答えが返ってきて混乱した。
何だよありがとうって…俺なんかした?
あ…過去のことを話したから?
ちゃんと理由、話したから?
…本当に?
………本当に…そんだけ?
「…ありがとう。」
「……っ。」
…ちゃんと話せた。
…なのに、後に残ったのは後悔だけ。
話してしまったという…後悔だけ。
…ごめん…こんなふうになるんなら、話さなきゃよかった。
楽しい話して、くだらない話して、一緒に弁当食えばよかった。
…だってさ、俺の話を聞いて、こんな顔すんの…お前が初めてなんだよ。
事故の話をして…後悔させられたの…お前が初めてなんだよ。
お前のその顔は、哀れんでいるようでもなければ、同情しているようにも見えない。
……あの時の親父と一緒。
「…。」
お前の「ありがとう」が……
何でだか今…すっげぇ痛いよ。
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