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明るい照明の下で見ると今度の得物は殊更上等に見えて
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明るい照明の下で見ると今度の得物は殊更上等に見えて、貝塚は少し得意な気分になった。
根元だけ濃い色のふわふわと緩くウェーブがかかった栗色の髪。
明るい色の髪が無造作に包む、柔い顎のラインはやや幼い印象だが健康的で、顔立ちは優しいが女性的ではない。
濃い眉と丸い目、すっきりとした鼻筋と少し大きめの口、血管の透けて見えるような薄い白い肌、淡い色の唇。
黙っている間も余計な含みのない、キョトンとした顔が生まれて間もない仔犬のようだ。
彼の同居人はもともと犬派だといっていたし、きっと気に入るはずだ。
雨にぬれて、雫の滴っている前髪を掻きあげてやると、その手を煩そうに払いのけてぶるぶると頭を振った。
その動作が犬そのもので、思わず声を上げて笑った彼に対し、青年が少し、眉を顰める。
「なに?」
「俺の奥さんに、ちゃんとご挨拶してね?でないと飼って上げられないよ」
「おくさん」
顔いっぱいに疑問符を浮かべる青年の髪をもう一度撫でて、貝塚は自宅の扉を開けた。
おじさんがコートのポケットの底の方から鍵を見つけ、玄関の扉を開けるとすぐそこに、灰色の猫が行儀よく座ってた。
小柄な身体に、短毛の毛並みがきちんと整った、綺麗な猫だ。
「ただいま、クイーン」
おじさんがよっこいしょーとか言いながら、撫でようとして腰をかがめる間に、猫は細長い尻尾で一つ床を叩いて、ちょっと身を捩っておじさんの手を避けた。おじさんの肩越しに俺の顔を見て、結構露骨に嫌そうな顔をする。
ってウソ、猫ってあんな顔するんだ?
「クイーンあのね、この子はねえ」
おじさんがのんびり、話してる途中で、すっと身を翻して勢いよく奥に引っ込んでいってしまう。
「あれが、奥さん?」
「違うよ」
玄関に腰掛けて、ブーツを脱ぎながらおじさんが少し笑う。赤く脹れてる頬が、照明が明るいと殊更痛々しい。
「だ、」
大丈夫?っておじさんの頬っぺたに触る前に、頭の上から声が聞こえた。
「なんすか、その子」
さっきの気難しそうな灰色の猫を抱いた、おじさんより少し若いイケてるおじさんが不機嫌そうな顔をして立っていた。
眉がきりっとした、顎の四角い男らしい濃いめの顔がちょっと日焼けしていて、薄手のセーターと細身のパンツ越しに見える体が筋肉質で締まっている。
背も俺より少しだけ高くてモデルみたいなイケメンだけど、小奇麗な髪型とか服のセンスとか、猫を撫でる手つき、手入れの行き届いた爪がどう見ても、ゲイだ。
「可愛いでしょ、拾ったんだあ」
ニコニコしながら答えるおじさんに対して、イケメンがますます険しい顔をする。
「だあ、って、」
文句を言い掛けて、顔色を変えておじさんの赤紫になってる頬に、猫を抱いていない方の手を伸ばす。
おじさんは煩そうにその手を思いっきり払う。こちらに背を向けているおじさんの顔は見えないけど、ひどく乱暴な手つきだ。
イケメンがちょっとだけ悔しそうな顔をして、一つ、重い溜息を吐く。
「これが奥さん。ね、ご挨拶して?」
そう言いながらこちらを向いたおじさんは、さっきと変わらずニコニコ笑っている。
何だか少し変な空気だけど俺は気がつかない振りをして、営業スマイルを浮かべる。
「しのざきしょーき、25さい。趣味はセックス、職業は出張ホストです!しょーちゃんてヨンデネ」
精一杯明るくはった声ががっちがちに固かったから、たぶんなんとか笑えたと思った俺の顔も、どうしようもなく、引き攣っているのだろう。
だって俺を睨むイケメンの、額に薄っすら青筋立てて怒った顔が凄く怖い。
おじさん程は大きくないけれど、眉と間の詰まった目が、目の光が、異様に鋭い。
「おい、どういうつもりだ」
低い、けれど俳優みたいによく通る声で、イケメンが言う。
「ん?俺に言ってるの?」
「アンタ以外に誰が居る」
ぐう。
空気を読んだのか、読んでないのか、俺もいますけど、みたいな絶妙なタイミングで俺の腹のムシがなく。
俺は冷や汗を浮かべながら、無意味に手を、左右に振った。
「あの、続けてください、どうぞ、黙らせとくんでこっちは」
「いや、続ける話なんてないよ。沢村くんこの子にご飯あげて。俺は風呂に入るから」
イケメンに抱かれてる灰色の猫にキスをして、おじさんはさっさと部屋の奥に入っていく。
「ボク、お家はどこかな?」
顔に青筋を立てたまま冷ややかな声で、それでもおじさんと話していたよりは随分柔らかい声音だったけど、凄く嫌味な口調でイケメンが言う。
変な汗をかいてしどろもどろしている俺の口の代りに、ぐうう、とまた一段と大きく、腹の虫が答えた。
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