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四季折の羽:パロディ【一人の猟師と一羽の鶴】
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慶応の御世、人里離れた山の麓に、小さな小さな村があった。
季節は冬。粉雪が空を舞い、風が雪を運び、降雪はやがて山の背を白く染めていった。
人々が煌々と色めく囲炉裏を囲い、雪が地上へ静かに降り注ぐように、それはそれは静かに暮らしていた。
雪国では積雪が激しくなり、陽があっという間に山の陰へと隠れ行くそんな日々が続いていたある日、一人の猟師が狩りを終え、山を降りようと積雪の中を歩いていた。
降り積もった不安定な雪を踏むと、橇がギュ、ギュ、と音を立てる。
体を覆った蓑には、はらりはらりと雪が落ち、赤くなる手の平を合わせ、猟師ははぁー、と息を吐いた。
猟銃を肩に背負い、白く染まる山道を歩いていると、ガチンっ、という音と茂みが揺れる音が聞こえ猟師は咄嗟に猟銃を構えた。
茂みがガサガサと激しく揺れ、獣が現れたんだと猟師は思った。
だが、次に茂みから聞こえてきたのは、苦しそうにもがき叫ぶ鳥の悲鳴だった。
猟師は茂みへと近付き、その光景を目の当たりにする。
そこには金属で作られた虎鋏に片足を食われ動けなくなっている一羽の美しい鶴がいた。
鶴は猟師に気付き、更に甲高い声を上げる。
翼をはためかせ必死に飛び立とうとしているが、食い込んだ虎鋏の刃がそれを許さない。
鶴は尚も猟師に威嚇を続けた。
天を仰ぐように何度も声を上げ、必死に威嚇する。
猟師の手には猟銃。足は食われ、空へ羽ばたくことさえ出来ない。
でもこんな場所で死にたくない。
まだ死にたくない。
だが、鶴が逃げようとすればするほど、虎鋏の刃は骨まで食い込んで行く。
ああ。もうだめだ。もっと生きたかった。
もっと空を飛びたかった。
自由という文字が脳裏に浮かび、全てを諦めた鶴の目から一雫の涙が落ちる。
その時、猟師が鶴へと近付いて来た。
撃たれる。覚悟を決め瞳を閉じた瞬間、金属に食われた足がスッ、と軽くなる。
「少し血が出ているが大丈夫だ。」
猟師は鶴の足を食っていた虎鋏を解き、傷を負ったその足に白布を巻いた。
「まだ飛べる。自由に生きろ。」
鶴が立ち上がると、猟師は微笑みそう言った。
もう飛ぶことさえ出来ないと諦めていた鶴は、大きな翼を広げ空へと飛び立った。
雪が舞う空を、一羽の美しい鶴が舞う。
猟師は鶴の背中が見えなくなるまでそこを動こうとしなかった。
人間の罠に捕まり、人間に助けられた鶴は、その猟師の姿を遠くの空から眺め続けていた。
それは、雪が降り続く、美しい夜だった。
雪が降る度に、鶴はその猟師を思い、年月を重ね命が尽きようとした鶴は強く願う。
自由を与えてくれた彼に、もう一度会いたい。と
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