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四季折の羽:パロディ【鬼の子】
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「やめろ‼︎返せ‼︎」
都に入ってすぐの事だった。
一人の男に医者がどこに居るのか聞こうと声を掛けると、男はいきなり俺が背負っていた風呂敷を取り上げ、その後腹を思いっきり蹴られた。
地面に這いつくばって、男の足に必死に縋り付くと、また男の右足が顔面に飛んで来て地面に蹲った。
「おめぇさん、外から来た奴だろ?金も持たずに都に来るなんて。こんなガラクタ持って一体ここに何しに来たんだ?」
「か…返せ……それは…」
ガラクタなんかじゃない……全部…全部俺の大切な宝物なんだ……
「けっ。シケてんなあ。なんだあ?この汚ねえ茶碗に箸はよぉ。」
「や、やめろ‼︎触るな‼︎」
カラン、と風呂敷から茶碗が落とされる。
取り戻そうと手を伸ばすと、男の足が俺の手の甲を踏み潰した。
「ぐあっ…」
「はっ。貧乏人が使った茶碗なんかどうするつもりだったんだ?あ?」
「……っ」
通りがざわざわとざわめき始める。でも、誰一人助けてくれる人なんて居なかった。
みんな、みんな俺を見て知らないふりして通り過ぎる。
「返せ……返してくれ…」
都……汚い連中の集う町……下衆の塊が住む町
「なんだあその目は。蒼い目ってのも不気味だよな。おめぇさん、まさか鬼の子なんじゃねえのか?」
「っ‼︎」
「鬼が。一丁前に人の姿してんじゃねえよ‼︎」
「⁉︎やめっ」
男が、俺の手から足を退かした瞬間、パキン、という破裂音が聞こえた。
「あ……あ…」
無残にも、俺の目の前で、あいつとの思い出が沢山詰まった、大事な、大事な俺の茶碗が踏まれ、割られた。
「まぁ、後のもんは使えそうだな。」
「…………」
「役人におめぇさんの事言っといてやるよ。鬼の子が出たってな。」
「………」
男が何を吐き捨てていったのか全然聞こえなかった。目の前の真っ二つになった茶碗の欠片を一つ一つ拾い上げる。
紅く塗られ、木で出来た綺麗な俺の茶碗……
「………ゔっ…」
一つ、また一つと欠片を拾い上げる。
「ごめん……っ…ごめ、ん……」
手が震えても、それでも拾い上げる。もう使い物にならなくなった物を胸に抱くと、あいつと囲炉裏を囲って毎日これを使って飯を食べた事を思い出した。
「……ゔ、ぅ……」
確かに、男が言ったように、もうこれは綺麗とは言えない代物かもしれねえ。沢山使ったから、塗料は剥がれてて、ボロボロだ。
汚ねえかもしれねえ。それでも、俺にとってこれは大事な大事な宝物なんだ…
それを手放す覚悟で、全部背負ってここに来たんだ……
「ぐっ、ぅ…」
俺は何も持ってねえから……俺が手放せる物はそれしかないから…だから…だから…あいつがくれた宝物をあいつの為に手放そうとしたんだ…
「人間なんて…っ…人間……なんて…」
それなのに…人間は人の大事な物を簡単に踏み潰す最低な生き物だ…
奪われた……全部奪われた。
なんてザマだ。鬼の子とまで言われて、たった一人の人間に全てを奪われてしまった。
やっと都に着いたのに…やっとあいつの為に何か出来ると思ったのに…
「…ごめん……ごめん…っ…」
俺は、鬼なんかじゃない……でも、ヒトでも無い……
だから言い返せなかった…だから取り返せなかった……
後ろめたい何かがあったから、あの男を殴る事も出来なかった。
悔しくて、悔しくて、涙が止まらなかった。
通りを歩く奴等は道端で泣き崩れる俺に見向きもしなかった。
もう、本当に俺があいつにしてやれる事は何もないのか…?
絶望という文字が脳裏をよぎった時だった。
「君、大丈夫?」
誰かが、俺の肩に手を置いた。
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