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オレとおれ。その3
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幼稚園を卒園する頃、ある日家に知らないおばさんがやって来た。おれは、お母さんの帰りを待ってたのに、家に帰って来たのは知らないおばさん。
「大変だったね。可哀想に。」っておばさんは呟いて、俺の頭を撫でた。お母さんとよく似てる手の温もりだった。
それからおばさんに連れられて、住んでた家を出てある場所へと向かった。
そこは、病院だった。
「パート帰りでトラックに撥ねられたらしいわよ。」
「居眠り運転らしいな。」
「可哀想に。即死だったんだってな。」
病室の前には、泣いてる大人の人が沢山いた。
壁に背を付けて、目を押さえてて沢山泣いてた。
悲しい事でもあったのかな?って不思議に思うくらいだった。おれはまだ子供だったから。どこに連れて行かれてるか全然分かっていなかった。
病室に入ると、看護師さんやお医者さんがベッドの脇に沢山居て、医療器具を片付けていた。
部屋の中は大人達が泣きじゃくる声と、ベッドの上で動かなくなった人に縋り付いて、その人の名前を何回も呼んでた。
誰を呼んでいるんだろう。ってまた不思議に思っておれはベッドに近付いた。
「…カナエ、和くんが来たわよ。」
おれの手を握り締めていたおばさんが、そう呟く。
「貴方を迎えに来たのよ。早く目を覚ましてあげなさい。和くんに貴方の声を聞かせてあげなさい。」って、おばさんはベッドの上で眠る人に語り続けていた。
「おか、あ…さん…」
カナエ。お母さんの名前。
「おかあさん」
ベッドの上で眠る人は、おれのお母さんだった。
体中包帯でぐるぐる巻きにされ、顔さえ見えなかったから、誰だか分からなかったけど、お母さんの名前を聞くと、おれも自然にお母さんと呼んで、ブラン、とベッドから垂れ落ちたその手を握り締めた。
けど、お母さんの手は冷たくて、石みたいに固くて、おれはそれが酷く恐ろしいと感じた。
何度お母さん、って呼んでも、返事は無くて、手も握り返してくれなくて。怖くて怖くて、おれはその場で周りの大人達と同じように沢山泣いた。
お母さんは、交通事故で亡くなった。
借金返済と、おれを育てる為に、パートを3つも掛け持ちしてた。その帰りに、トラックに撥ねられ、人生を振り返る事も、これからの未来を夢見る事も出来ないまま、お母さんは天国に行ってしまった。
沢山泣いた。掠れた声が沢山出た。
無知な子供だったのに、この時は何故かお母さんともう話しが出来ない。もう会えなくなる。って怖いほど理解出来てしまった。
お母さんが死んで、おれはお母さんのお母さん、つまり祖母さんに引き取られる事になった。
怖い思いを沢山詰め込んだ家。お母さんと小さな幸せなを過ごした家を、おれは出た。
借金は、祖母さんが代わりに返済していくと事が運んだらしく、娘を救えなかった自分が許せないとおばさんも毎日自分を責めて泣いてた。
その頃おれは小学生になった。
毎日お母さんの写真に行ってきます。って言って、おさがりのランドセルを背負って学校へ登校した。
でも、やっぱりおれは喋るのが苦手だったから、入学しても友達が中々出来なかった。
「おい、お前喋れねえんだってな。」
「………」
「口無し。」
そして、『口無し』とまで言われるようになってしまった。
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