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第一話 「出逢い 2」
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男の後をついていくと、近くの港で捕れた魚を焼いたものや、少年が今までに見たことのない食べ物がたくさん置かれていた。
男に言われ、椅子に腰を下ろす。
しかし、食べようという気持ちよりも、これに毒は入っていないのかと考えてしまう自分がいた。
「そんなに見なくても毒なんて入ってないぞ?」
少年の気持ちを察したのか、それともたまたまなのか...少年はびっくりして男の方を見た。
「別にそんなこと思ってねえです」
少年がそう言うと、男は腹をかかえて笑い、嘘が下手すぎると言った。
「そんなこと...ねえですよ」
「まあまあそんなムキになるな、それより冷める前に食べてくれ」
そう言われた少年は慣れない様子で箸を持ち、一度男の方を見てから目の前にあったじゃがいもを口に運んだ。
「美味しい...です」
自然と口から言葉がこぼれていた。
「美味しい、美味しい......」
口に運ぶたびにそういう少年の目から涙が流れていた事に少年自身は気付いていない。
男はその様子を見てびっくりしたが、あえてそれには触れないことにした。
「それはな...肉じゃがっていうんだ」
「にく...じゃが?」
「ここ数年で西洋からいろんな物や技術が日本に入ってきただろ?その時にたまたまできたのが肉じゃがっていう料理なんだよ」
「こんなに美味しいものがこの世にありやしたもんでい」
少年はそう言うと、それが相当気に入ったのか、そればかりパクパクと口に運ぶ。
「そんな肉じゃがばっか食べてると栄養偏るぞ?ほらっ...この魚も食べとけ」
男は焼き魚が乗せられてる皿を少年の目の前に運ぶ。
「あ、俺はあいにく魚が苦手でい...」
口の横に肉じゃがの食べ残しを付けたままキリッとした顔で答えられ、すこし可愛いと思ってしまった自分に、男はびっくりした。
「そうか、すまなかったな」
「いえ、こんなに食べさせてもらってるだけでも......ありがたい...ことなんでい」
そう言う少年の顔は...笑っていた。
とても綺麗に...哀しそうに...。
「お前、やっと笑ってくれたな」
ふっと男も笑みを漏らし、右手を頬に添えて机に肘をつく。
「でも...とっても哀しそうだ」
男が小さく零したその言葉に少年は驚いて箸を止める。
「お前はさ...きっとなにか重たい荷物抱えてんだろ?ならさ...俺はそれを少しでも軽くしたいな」
なんて事を口走ってるんだ俺は。
助けるって言ったって...何が出来るんだ?
俺は桜の木のそばで倒れているところを助けただけじゃないか...。
「俺が何者かも知らないで助けるなんて言ってもいいんですかい?」
少年が下を向いて、小声で、しかしはっきりと訴えた。
「俺と関わるとロクなことがないんでい...」
男がそんなことはないと否定しても、それでも、それでも...と俯いて言う少年の体は小刻みに震えていた。
一人でなにかを抱えている大きな体は実はとても小さくて今にも壊れそうだ。
その小さな背中に手を添えてあげたくなる。
(そうでないと今すぐ死んで、目の前から消えてしまいそうな気がするんだ。)
「でもこんな所で死にそうになっている美少年をほおっておけるわけがないだろ?」
男は笑顔で少年に言った。
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