アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第十二話「感謝祭 3」
-
今日は朝からお客さんが多くて、ようやく一段落つけるようになった時にはもうお昼が過ぎていた。
「つ、疲れた...」
接客をひとりでするには少し大変な量だったのもあって、思わず体をカウンターにべたりと伸ばしていた。
「こら」
「いてっ」
ひんやりしたカウンターに心地よさを感じていると、頭を常磐さんに叩かれる。
すると、いつの間にか奥から出てきていた常磐さんが見たことのない飴を持っていることに気づいた。
常磐さんにしては珍しく新作でも作っていたのだろうか。
「それ、どうしたんですかい?」
俺はカウンターから渋々と顔を上げる。
「ん?ああ、これか」
そう言うと、常磐さんは自身が持っている飴を見て、なにか納得したようだった。
「刹那はまだここで夏を過ごしてないから知らないか」
「...?」
なんだか、俺の知らない常磐さんが見えた
...ような気がした。
「これぐらいになると、いつも作ってるんだよ」
「...でも、青色って変わってやすね」
「あはは、それは俺も思ってるんだけどな」
苦笑いをしながら、常磐さんはその飴を口に含んだ。
その時、俺はさっきの常磐さんの言葉に違和感を感じた。
「俺も思ってるって...これは常磐さんが作ったんじゃねえんですか?」
俺がそう聞くと、常磐さんは驚いたようにこちらを見て少し固まった。
そんな彼の様子に、俺はなにか変なことでも聞いてしまったのかと不安になって謝ろうとしたが、それは常磐さんによって遮られる。
「ここ、元々は俺の師匠がやってた店なんだよ」
__________
場所は変わって、ここは表の中心にそびえ立っている館の一室。
そこに一人の男がいた。
無駄に広い空間で一人黙々と書類の整理をしている時、無遠慮に扉をノックせず入ってくる人物がひとり。
「尊さーん!!」
「うるさい黙れ」
子供のように飛びかかってくる勢いで現れたのは平腹である。
そして平腹に真顔で罵倒を浴びせる男の正体は諏訪尊だ。
「今日もお務めご苦労ですっ!」
そう言って平腹はニッコリと笑い、驚くほど綺麗に敬礼をした。
そんな平腹の態度から蜻蛉隊の人間は皆それ相応の訓練を受けていることが伺える。
そんな彼のうしろで、まるで自分の入る間を待っていたかのようによく通るはっきりとした女の声がした。
「諏訪先輩、お伺いに参りました」
そう言ってから、平腹同様綺麗な敬礼を見せる。
長い黒髪を一つに縛り、枝毛一つないその髪は蜻蛉隊の白い軍服によく映えていて、真を持った目つきからは彼女の性格が見え隠れしているようだ。
「平腹、そして時雨。二人とも、急に呼び出してすまなかった」
尊は作業を一時中断し、細かい彫刻が施された大きな机に肘を置いて話をする。
「諏訪先輩、一つ質問をしてもよろしいでしょうか」
「ん?言ってみろ」
さっき時雨と呼ばれた彼女が胸の前で手を挙げた。
「平腹隊員と私は、諏訪先輩の護衛を務めております。そして、政府からしばらくは任務はないとの報告を昨日耳にしたばかりです。それなのに何故...」
「あー!それ俺も思いました」
時雨は言葉を無視して思ったことをすぐに口にする平腹に手を出すが、軽々と避けられ行き場のない苛立ちを仕方なく拳に閉じ込めた。
「それなんだが、政府からではなく、俺個人として気になっていることがある。今日はそれを調べてもらおうと思って二人を呼んだんだ」
「諏訪先輩が政府以外のことで自ら動くなんて珍しいですね」
受け答えする彼女に対し、平腹はどこかつまらなさそうに黙っている。
「平腹もそんなつまらなさそうにするな...今日言うからと言って、すぐにやらなくてもいい。自分の好きなタイミングで向かってくれればいいから」
「んー、わかった...」
「貴方は犬かなにかですか!」
さっきの元気な態度と打って変わってしまった平腹に、ツッコミをいれる時雨。
その様子を、紅茶を口に運びながら尊は見ていた。
少ししてそれに気づいた二人は、尊は何も言っていないのにお菓子を取り上げられた子供のように黙ってしまった。
別に起こっているわけではなかった尊は、すこし気持ちが沈んだが言えるわけもない。
「別に何も怒ってないだろ...今日は俺も機嫌がいい。という訳で、そろそろ本題に入ろうと思う。
今回二人にやってもらいたいのは、ある人物についての情報を集めることだ」
そう言って、尊は机の引き出しの一番上から一枚の写真を取り出す。
それを一度自分で確認してから、尊は二人に見えるように机に置いた。
「この子!あの時の子だ!」
「平腹隊員?...お前、こいつを知ってるのか?」
「知ってるも何も、一回だけ会ったことあるよ」
そう言って、平腹は探していた玩具を見つけたように、笑みを浮かべる。
「俺も平腹も一度だけ見たことがある。俺が気になっているのは年齢からは感じさせないほどの暗器使いの持ち主だったからだ」
「あの子ってば、俺でもちょっとヒヤッとしちゃいましたよ」
蜻蛉隊はレベルの高い人間が集まって構成されている。言わばエリート集団だ。
その内の平腹からひやりとしたなんて言葉を吐かせた彼は、尊から見て単に興味をそそったのだろう。
「しかし、あいつは俺が見た限り使い方にはたけていても、護身術にはめっぽう疎いように見えた。......違うか平腹?」
「いや、俺もそう思いました」
笑顔でそういう平腹に、尊はほんの少し頬を緩めて頷き、立ち上がった。
「平腹もこう言っている、まぁこれは俺の単なる勘にすぎないが、出来るだけ情報を集めてくれ。時雨はこういう仕事が得意だろ?」
「はっ、そのお言葉嬉しく思います」
「平腹は時雨のサポート役だ。頼んだぞ」
「はーい!なんか面白そうだね、時雨」
「うるさいです」
拗ねたように言って、そっぽを向く時雨にすこししょんぼりとしている平腹は子犬様々である。
仲がいいのか悪いのか、よくわからない。
そんな様子を、尊はどこかすっきりとしない気分で見ていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
76 / 106