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第十五話 「夏の花と忍ぶ影 8」
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「刹那さーん!」
聞こえた方を見ると李筑がこちらに向かって手を振っていて、その隣に鳳さんが紅色の傘を下げて立っていた。
鳳さんとは店番の時にちょくちょく会っていたのだが、李筑とは初めて会った時以来会っていなかったのですごく懐かしい気がする。
それもそのはず、鳳さんの家は着物屋を営んでいて、李筑はその手伝いに追われているからなのだが。
「刹那さんに常磐さん、お久しぶりです」
相変わらず礼儀の正しい李筑だが、なんだか前に会った時より背が伸びている気がする。
「久しぶり、背伸びやしたか?」
「えへへ、実は少しだけ伸びたんです」
頬を指でかきながら照れくさそうにはにかむ李筑の顔はまだ子供っぽさが残っていた。
「刹那ちゃん久しぶり・・・でもないわね、5日ぶりかしら?」
綺麗に化粧を施した鳳さんがそう言いながら笑うと、とても綺麗だ。
しかし綺麗という表現だけでは足りなく、言葉に出来ない色気が見え隠れしていたのは言うまでもない。
「そうですね、5日ぶりでい」
「ふふ、もう5日も経ってたのね・・・まあ今日はこの子が祭りに行ったことがないっていうもんだから連れてきたのよ」
そう言って鳳さんに軽く背中を叩かれた李筑が少し前によろめいて、刹那の胸におさまった。
突然の衝撃に危うく綿菓子を落としてしまいそうになって、慌てて体制を整える。
「ご、ごめんなさい・・・刹那さん」
「大丈夫」
そう言いながら俺は少し微笑んだ。
といってもあまり顔には出せていないだろうけど、李筑は俺の顔を見て幸せそうに頬を緩めたのを見て、少し安心した。
初めて出会った時にはこんな関係になるなんて思ってなかったのに、不思議なものだ。
「刹那、早く食べないと綿菓子溶けてきてるぞ」
隣に立っていた常磐さんが刹那の手から綿菓子を取って、一口食べながら言った。
「綿菓子って溶けるんですかい」
「そりゃそうだろう、ほら」
目の前に持ってこられた綿菓子をじーっと見ると、先の方に砂糖が液体となって小さな粒を作っていたのが見えた。
「溶けてきてるだろ?ほら、さっさと食べちまいな」
そう言われて早く食べようとするけど、ベタベタする綿菓子と格闘している刹那の姿は周りからしたら人参を食べている兎のようだった。
「ふふふ、相変わらず可愛らしいわね、刹那ちゃんは」
鳳さんのその声は一生懸命食べていた俺には届いていなかったけど、常磐さん達はその光景を微笑ましく見ていたのだ。
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