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体は悲鳴をあげているのに休もうとしないまま、気が付けばプールアリーナに照明が戻っていた。
コースの端で息を整えながら周りを見てみると、何人かいたはずの利用客は既におらず、時計を見てみると利用時間ギリギリだった。これではシャワーをする時間などなさそうだ。
はぁ~っと溜め息をつくと、隣のコースにはまだ人が泳いでいた。
夢から醒めたような、寂しい気持ちになるのは、俺だけではなかったようで…。
「夢見てたみたいだったなぁ」
「だな。まだ昂ってるよ」
「でも、もう終いだな」
「あぁ」
利用客の居なくなったプールに礼をして、俺たちは閉館の音楽の鳴る中を足早に進んでいった。
シャワーに後ろ髪を引かれながら、タオルでゴシゴシ拭きながら着替える服を出す。スラックスをロッカー扉に垂れ掛けると、疲弊した体が拒絶反応を見せた気がした。まぁ、着ないわけにはいかないのだが。
更衣室に何人かいた利用客も今は俺と松田さんしかいなかった。ロッカーを壁にして向こう側で松田さんは着替えている。何の遠慮も無しで、素っ裸で体を拭いた。疲労感もあってか開放感が半端ない。
スラックスとTシャツだけ着て帰ろう。下着とスラックスを同時に履いて、まだ濡れたままの頭で荷物を片付けた。
「豊田。お前車?」
「ですよ。松田さんは?」
「自転車」
「マジで?今雷鳴ってないけど、乗せて行きましょうか?」
「助かるよ」
黒い繋ぎ姿の松田さんは前のジッパーを胸元より下まで、開けていた。肩幅がある分、細くても大きく見えた。
「松田さん、そういう仕事なの?」
「ん?あぁコレか。違う違う。着替え面倒だし、自転車だからさ、ジャージだと腹冷えるんだ」
「チャリ、車に乗せときます?」
「なにワンボックス?」
「スポーツワゴンですよ」
タレ目をさらにさげた松田さんが親指を立てて俺の胸を押した。
この人、こんな風に破顔して笑うんだな、と初めて知った。
松田さんはロードバイクという自転車の愛用者だった。タイヤが細くて俺の知っている自転車なんかより随分と軽かった。サドル位置が高くどう見ても腰を痛めそうな姿勢だと、俺は自分の車でロードバイク横を通るときにいつも思っていた。俺の回りには乗ってる奴なんていなかったが、こうして実際出逢ってみると、車道で邪魔なんだよ!なんてことは口が避けても言えない。
車に入れる際、松田さんは大事そうにロードを横にしていた。デリケートな乗り物なのか、それとも大切にする理由が何かあるのかもしれない。
雨だかプールだか分からない濡れた髪の毛をお互いに拭って、少しばかり小雨になった道を下っていった。
どうでも良い話をして、話が途切れることもあったが、なんだかずっと前からの知人のような感覚だった。お互いにカミングアウトしているからか、それともプールでのあの感動を共有したおかげか。
「豊田、明日は休みなんだろ?空いてる駐車場もあるし、寄ってけよ」
「いや、いいですよ」
「遠慮すんな。俺も明日暇だしな、付き合えよ」
「…はぁ、わかりました」
途中、酒は?煙草は?腹は減ったか?と立て続けに聞かれ、腹は減ったがラーメンが良いと伝えるとルート変更を指示されてラーメン屋で奢ってくれた。
「車代にしては安くついたよ」
「いや、そんなつもりじゃ無かったし」
「ずっと前からさ、豊田と話してみたいと思ってたんだ。…ブーメランだし」
「松田さん、水着しか見てないだろ?」
「お前もだろ」
「…うっせ」
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